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マンクスマン

The Manxman/1929年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:サー・ホール・ケイン/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、マルカム・キーン

マンクスマン – 解説

「マンクスマン」とはアイルランド海に浮かぶマン島人のことで、サー・ホール・ケインの高名な小説を忠実に映画化している。開巻に出てくる「もし人、全世界を得るとも、己が魂を失わば、如何にせんや」という聖書の句を下じきにして、住民たちの人間ドラマを情緒的要素で一貫してとらえ、エリック・ローメルたちの評価は高い。「リング」についで「不倫の関係」を主題にしているのも見逃せない。

マンクスマン – ストーリー

幼いときから仲のよかった漁夫のピートと弁護士フィリップが、マン島へ戻って来た。旅館の娘ケイトを愛しているピートは彼女に結婚を申し込むが、貧乏を理由に彼女の父に断られた。そこでピートはケイトに必ず戻って来ると約束して出稼ぎに行くが、やがて彼女のもとにピートが死んだという知らせが伝わった。フィリップはケイトをなぐさめるが、実は彼もケイトを恋していたのである。ケイトはフィリップの愛を知り、彼女も彼に愛を告白した。ところが、そこへ死んだはずのピートが帰って来る。

シャンパーニュ

Champagne/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原案:ウォルター・c・マイクロフト/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:ベティ・バルフォア、ゴードン・ハーカー

シャンパーニュ – 解説

わがままな若い娘が世間を知るようになるアメリカ調の「道徳教育」的な物語である。ヒッチコックは、立ち聞きする女中、宝石、食事のシーンなど、後年得意とする演出や小道具の使用をこのころから用いはじめている。
大揺れの船上をまっすぐに歩く酔っ払いのギャグなどユーモラスなタッチが盛んに使われていて、そうしたタッチでの場面をしめくくる手法も目立ってきたようだ。

シャンパーニュ – ストーリー

億万長者の娘ベティは愛する男との結婚を父に反対され、家出してフランスへ行った。父はイカレ気味の娘に世間の厳しさを教えようとして破産したことにする。ベティはあるキャバレーにつとめるが、仕事として客たちにできるだけシャンパンを飲ませなければならない。このシャンパンこそ、彼女の父を財産家にした商品だった。

農夫の妻

The Farmer’s Wife/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:イーデン・フィルポッツ/脚色:アルフレッド・ヒッチコック/撮影:ジャック・コックス/出演:ジェームソン・トーマス、リリアン・ホール=デイヴィス

農夫の妻 – 解説

イギリスの劇作家イーデン・フィルポッソのヒット戯曲の映画化である。主人公が自分を理想的な結婚相手であると思いこむことから起こる田園喜劇で、ウェールズ地方の風景や風物の描き方や、そこから醸し出させる雰囲気に味わいを見せ、単純・素朴な作風であっても、それがほほえましい。

農夫の妻 – ストーリー

アップルクラス農場の主、男やもめのサミュエル・スィートランドは、一人娘を嫁に出し、寂しい思いをしていたが再婚を決意。住み込みの女中アラミタに相談を持ちかける。彼は、貴族の未亡人、未婚の農場主、女性郵便局長、それに居酒屋の女主人の名を上げるが、アラミタは不服そう。実は彼女は心ひそかにサムを想っていたが、まさかそれを口に出すわけにはいかない。サムは一本調子の男臭さで初めの三人に求婚するがいずれも断られて意気消沈し、最後の女主人には結局何も切り出せずにすごすご帰宅。そこでようやく“灯台下暗し”、美しく働き者のアラミタの存在に気づいたのだった。

リング

The Ring/1927年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/脚本:アルフレッド・ヒッチコック/潤色:アルマ・レヴェル/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、リリアン・ホール=デイヴィス

リング – 解説

ヒッチコックは、はじめてここで自分の原案によるオリジナルを手がけ、ヒッチコック夫人アルマ・レヴィルが潤色者としてはじめてクレジットされた。
ストーリーは一人の若い女をめぐる拳闘選手二人の葛藤であり、エリック・ロメールはここに早くも不倫の関係というヒッチコック的素材が現われていることを指摘しているが、演出の細部においても彼らしい工夫がいくつかある。また、原題の「リング」は、ボクシングのリングを示すとともに、ボブが、ネリーに贈った結婚指輪のことも意味している。なおこの作品は、これまでゲインズボロー社からBIP(ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ)に転じてのヒッチコックの第1作である。

リング – ストーリー

遊園地のさびれたボクシングの見せ物小屋のボクサー、ジャック。彼はそこでヘビー級チャンピオンに見出され、彼の練習役として働くことになる。しかしチャンピオンは同じ見せ物小屋の受付嬢でジャックの妻である女性と恋に落ち、彼女もまた彼に好意を抱いてゆく。そんな二人を後目に嫉妬に燃えるジャックは彼と戦い、妻を取り戻すため快進撃を続け、いつしか二人はリングで決着をつけることに。

ふしだらな女

Easy Virtue/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ノエル・カワード/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ/出演:イザベル・ジーンズ、ロビン・アーヴィン、フランクリン・ダイアル

ふしだらな女 – 解説

主人公に救いがないという点で、ヒッチコックのなかではめずらしいといわれるこの作品は、当時イギリスでもっても人気のあった劇作家ノエル・カワードの風俗劇の映画化である。電話の交換手の表情だけで結婚の約束を示すなど、「下宿人」と同様にスポークン・タイトル(無声映画の字幕)に頼らず映像で語ろうとした作品で、ディゾルヴや移動撮影にも工夫が見られる。

ふしだらな女 – ストーリー

ローリタ・フィルトンは酔いどれの夫と離婚したあと、若い芸術家と恋をするが、彼を自殺に追いやったため、悪名を高めてしまった。やがて、ローリタはジョン・ホワイトタッカーという貴族の青年に出会い、再婚する。ジョンは彼女の過去についてなにも知らなかったが、ジョンの母親がローリタの過去を洗い出し、息子を離婚させる。そして、追い込まれたローリタは破滅する。

下り坂

Downhill/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:アイヴァ・ノヴェロ、コンスタンス・コリアー/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ、ライオネル・リッチ/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ベン・ウェブスター

下り坂 – 解説

この作品の前につくった監督第3作「下宿人」で早くもスリラー映画を手がけたヒッチコックではあるが、その後ただちにスリラー映画専門となったのではない。この第4作ではふたたびメロドラマ的な世界へ戻っているのである。

下り坂 – ストーリー

ロンドンの良家の息子ロディはパブリック・スクールの生徒だったが、寄宿学校で盗みを働いたかどで退校させられてしまった。ほんとうは学友が犯人であることを知っていたが黙して語らない。さらに父親からも勘当され、そこで社会で出たロディは、ある女優と関係を結ぶが、そこにもいられなくなり、パリでプロのダンサーに転じ、社交界の人気者となった。

下宿人

The Lodger/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ベロック・ロウンデス/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/助監督:アルマ・レヴィル/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ジューン、マリー・オールト

下宿人 – 解説

これが最初のイギリスでの映画であり最初のサスペンス映画である。すなわち「ヒッチコック映画」と称すべきものの第一作。以後ヒッチコック作品にしばしば現われる「間違えられた男」という主題の最初の登場でもある。のちの「ヒッチコック・シャドウ」と呼ばれる視覚的効果を充分にとりいれている。

下宿人 – ストーリー

冬のロンドン、金髪の若い女性ばかりを狙う殺人鬼が現われる。ブロンド娘のデイジーの両親が営む下宿屋にひとりの男が部屋を借りる。怪しげな彼の行動に周囲の人びとは犯人ではないかと疑い始めるが、デイジーだけは彼を信じている。ついに、彼はデイジーの恋人の警察官に逮捕される。手錠のまま逃走。乗り越えようとした鉄柵に手錠がひっかかり宙吊りになってしまう。犯人逮捕の知らせに興奮した群衆が今にも彼につかみかかろうとする。そのとき真犯人逮捕の報が届く。男は殺人犯に妹を殺され、復讐のために犯人を探していたのだ。

山鷲

The Mountain Eagle/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/脚本:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ベルンハルト・ゲーッケ、ニタ・ナルディ

山鷲 – 解説

第1作にひきつづきドイツで作られたやはりメロドラマ。舞台がケンタッキーの山奥に設定され、サイレント期のアメリカの大女優ニタ・ナルディが主演をつとめているのは、制作者のマイケル・バルコンがアメリカ進出をねらったためである。アメリカでの公開題名は主要人物の綽名をとった“Fear o’ God”。ヒッチコックによれば「とてもひどい映画」ということになるが、プリントが現存しないため物語の詳細も不明だし、写真としてもフランソワ・トリュフォーによるインタヴューの本“Cinema selon Hitchcock”に掲載されている6コマがおそらく唯一のものである。

山鷲 – ストーリー

アルプス山間の一寒村に村人から「山鷲」と綽名されている青年がいた。彼の名はゴトフリードと言い正義を愛する豪快な気性を持ち村里から離れた山腹の侘びしい小屋に住んでいた。「山鷲」の存在を目の上の瘤として快く思わなかったのは村長のペーテルマンであった。彼は村一番の長者であり権勢家であったが生来貪欲な彼は不正な事も敢えて行ったことがあるからである。しかしペーテルマンも子の愛は持っていた。彼の息子のアマンヅスを立派な男とするため女教師ベアトリス・レーメルの許に遣した。彼はベアトリスが美人の評判が高いので息子ともしや間違いでもあってはと自ら彼女を訪れた。

快楽の園

The Pleasure Garden/1925年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン、エリック・ポマー/原作:オリヴァー・サンディス/脚色:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ヴァージニア・ヴァリ、カーメリタ・ゲラーティ

快楽の園 – 解説

ヒッチコックはイギリスの撮影所でサイレント映画の字幕デザインの仕事によって映画入りし、1922年に「第十三番」(または「ピーボディ夫人」)という映画を監督したが、本国でも未公開(または未完成)に終わった。その後、映画美術、助監督、共同監督などを務め、1925年にイギリスの制作者マイケル・バルコンに認められ、ドイツのミュンヘンにあるエメルカ撮影所で一本立ちの監督としてデビューすることになった。
そのヒッチコックの第1作「快楽の園」は皮肉な運命をえがくメロドラマで、ヒッチコック自身は特別の愛着を抱いていない。しかし、主人公の結婚の未来を暗示する不吉なショットや、全編を通じて構図やモンタージュにあらわれる線の交差する大胆な演出など、すでにヒッチコック・タッチを見ることができる。

快楽の園 – ストーリー

劇場「快楽園」の踊娘パッシーは或日踊娘志願の田舎娘ジルを救って自分の下宿に伴って来た。翌日機敏なジルは首尾よく雇われることが出来た。ジルにはヒュウという婚約者があったが彼はアフリカに出稼ぎに行って結婚費を得ようと出発した。彼の友人レヴェットはパッシーを恋して結婚しイタリアへ新婚旅行に出掛けた。ジルは次第に放縦に流れバッシーの意見を耳に入れずイヴァン公爵という遊蕩児をパトロンとすると共に支配人のハミルトンを抱込んで劇場の首尾をよくしたレヴェットもヒュウの後を追ってアフリカに赴き妻のことは忘れて恋を漁った。ヒュウはジルを想っていたがジルが公爵の愛妾となってしまったことを聞いて悲嘆せずにはいられなかった。