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巌窟の野獣

1939年/白黒/原作ダフネ・デュ・モーリア/脚本シドニー・ギリアット、ジョーン・ハリスン/出演チャールズ・ロートン、モーリン・オハラ、ロバート・ニュートン

巌窟の野獣 – 解説

「レベッカ」の原作者でもあるダフネ・デュ・モーリアの原作からアルフレッド・ヒッチコックが渡米直前に製作したスリラー。イギリス時代最後の作品である。この作品はサスペンスというよりは冒険アクション仕立てのコスチューム・プレイであり、カメラが人物とともに、マストのてっぺんから投げ出されるように見える演出などはあるというものの、精緻さにも欠け、絶頂期のヒッチコック作品としては見劣りのする結果になってしまった。脚色は、「青の恐怖」「夜霧の都」のシドニー・ギリアットに、「レベッカ」「断崖」のジョーン・ハリソンが協力している。撮影は、「世紀の女王」のハリー・ストラドリング、監督に転向して「赤い百合」などを放っているバーナード・ノウルズが担当している。

巌窟の野獣 – ストーリー

母を失って孤児になったメリイ(モーリーン・オハラ)は、たった一人の身寄りの叔母ペェシェンス(マリー・ネイ)を頼って、彼女が経営するホテルへと行くことにした。馬車に乗って行ったが、馬車はそのホテルの前では止まらず、随分過ぎた山の中で止まった。メリイは近くに一軒だけある豪邸の門を叩いた。そこに住む立派な紳士ペンガラン(チャールズ・ロートン)に助けられ、叔母のホテルまで送ってもらった。すると、ホテルは驚くほど荒れていて叔母の夫だというジョス(レスリー・バンクス)がガラの悪い仲間とともに酒宴を開いていた。叔母もすっかり疲れ切った様子で老け込んでいた。

バルカン超特急

The Lady Vanishes/1938年/ゲインズボロー作品/白黒/製作:エドワード・ブラック/原作:エセル・リナ・ホワイト/脚色:シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー/撮影:ジャック・コックス/音楽:ルイス・レヴィ/出演:マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイブ、ポール・ルーカス、メイ・ウィッティ、ノーントン・ウェイン、ベイジル・ラドフォード

バルカン超特急 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の最高傑作といわれるこの作品には、たしかにみごとな完成感がある。ヒッチコック映画のさまざまなジャンルにまたがる要素を含んでいて、しかもそれぞれのジャンルとして一級であることからくる完成感と言えばいいだろうか。
列車を舞台にしていることがいかにもヒッチコック好みである。サスペンスと列車を結びつけた作品は数多いが、列車サスペンス物の最高水準を示している。
最初にいがみあっていた男女が、さまざまな事態を経るうちに次第に心を惹かれていき、最後に結ばれるというスタイルもヒッチコック調だが、その点でも理想的な運びをみせている。「バルカン超特急」は舞台が列車という特殊な場であるだけに二人の関係の扱い方はごまかしがきかないのだが、うまく処理して成功しているのである。また、この映画では主人公が若い女性で、それを男が助けるという形になっているが、この種のヒッチコック作品の定石として、男が中心となり、それを女が助けるという形が逆になっているのも面白い。また、暗号がメロディになっているところも、この物語の魅力のひとつである。

バルカン超特急 – ストーリー

ルカンの避暑地バンドリカ(仮想国)からロンドンへ帰る列車に乗ったアイリス(M・リックウッド)は、豪雪で立往生した列車から他の客と共にホテルへ避難した。客の顔ぶれはクリケット狂のカルディコット(ノーントン・ウェイン)にチャータース(B・ラドフォード)、弁護士と女、貴婦人フロイ(メイ・ウィッティ)等。アイリスがホテルで寝ようとすると客の一人のギルバート(マイケル・レッドグレーヴ)が大騒ぎを始め、二人はいがみ合う。と、聞えてくるギターの調べ。その歌声はミス・フロイの部屋の窓の下でやんだ。ギター弾きの背後に忍ぶ大きな影。翌朝、ダイヤは回復し、出発の準備をしているアイリスの頭に植木の箱が。軽い打撲傷ですんだものの、彼女の前を横切ったのはミス・フロイだった。列車で二人は偶然にも同室となる。一眠りしたアイリスが起きた時、ミス・フロイは消えていた。

第3逃亡者

Young and Innocent/1937年/ゲインズ・ボロー=ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/製作:エドワード・ブラック/原作:ジョセフィーン・ティ/脚色:チャールズ.ベネット、エドウイン・グリーンウッド、アンソニー・アームストロング、ジェラルド・ザヴォリ/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/編集:チャールズ・フレンド/出演:ノヴァ・ピルビーム、デリック・デ・マー二ー、パーシー・マーモント、ジョージ・カーゾン

第3逃亡者 – 解説

無実の罪を晴らそうとする男が真犯人を追うサスペンス作品。この作品の圧巻はラスト近くホテルのボール・ルームの場面である。カメラはロング・ショットで大広間をとらえ次第に広間の奥で演奏している黒人に変装したドラマーに接近し、ついに激しくまばたきする眼のアップに至るまでクレーン車による大トラック・アップを見せるのである。のちの「汚名」でイングリッド・バーグマンの掌の鍵に近づいていくショットと共通したものだ。また廃坑に車がのみこまれ、主人公がヒロインに手をさしのべるスリルは「北北西に進路をとれ」にまで発展するヒッチコック式見せ場である。

第3逃亡者 – ストーリー

映画女優クリスティン(P・カーム)は、嫉妬深い夫ガイ(ジョージ・カーゾン)に男出入りをなじられた翌朝、死体で浜に打ち上げられた。発見者は被害者と顔見知りのロバート(デリック・ド・マーニー)。通報しようとした彼は来あわせた女達にとがめられ、逆に逮捕されてしまった。凶器として使われたのは、彼のレインコートのベルトだったのだ。無実を主張するロバートは徹夜のとり調べに失神し、入って来た警察署長の娘エリカ(ノヴァ・ピルビーム)に介抱された。やがて正気づいた彼は濡れ衣をはらすため、彼女の車に隠れて脱出する。エリカにかくまわれるロバートだが、エリカは彼の保護者気取り。レインコートをなくした酒場で、彼女はウィル(エドワード・リグビー)という名を聞き出す。さらに、近くのエリカの叔母の家によったため、二人は検問にひっかかり、彼女も共犯と思われる。

サボタージュ

Sabotage/1936年/シェファード=ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/製作:マイケル・バルコン/協同制作:アイヴァ・モンタギュ/原作:ジョセフ・コンラッド/脚色:チャールズ・ベネット/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/編集:チャールズ・フレンド/出演:シルヴィア・シドニー、オスカー・ホモルカ、ジョン.ローダー

サボタージュ – 解説

「暗殺者の家」「三十九夜」「間諜最後の日」とつづくこの時期のヒッチコック作品はどれも彼の実力を示すものばかりだが、前記作が犯人を追跡する行為のなかでサスペンスを生みだしていったのに対し、ここでは一定の場とその日常描写から生まれるサスペンスの追求を行っている。原作はジョセフ・コンラッドの小説「諜報部員」だが、今回は原作にかなり忠実でありながら、しかしやはりヒッチコック流に仕立てた。
各エピソード、各場面、視覚的造形性、セリフなどの関連はますます緊密になり、喜劇的なタッチを挿入する独自な話芸はいっそう明瞭で意識的になってきた。
また、この作品は観客の同情を買うべきヒロインが殺人を犯すという点で、たとえば「ゆすり」に似ているが、凶器であるナイフの扱い方や、ヒロインが殺人の罪を逃れる設定など共通点が多い。ヒロインを演じたシルヴィア・シドニーは演技力の確かなハリウッドの女優である。

サボタージュ – ストーリー

破壊工作活動をする無政府主義者の夫と、その正体を知らぬ妻。夫が時限爆弾を運ばせたため、妻の弟は爆死。弟の復讐に燃える妻は、夫を刺殺し、完全犯罪をもくろむが。

間諜最後の日

The Secret Agent/1936年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン、アイヴァ・モンタギュ/原作:サマセット・モーム/脚色:チャールズ・ベネット/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ジョン・ギルグッド、マテリン・キャロル、ピーター・ローレ、ピーター・ローレ、マデリーン・キャロル、ロバート・ヤング、リリー・パルマー

間諜最後の日 – 解説

ヒッチコックにはスパイを扱った作品がいくつかあるが、スパイその人と活躍を中心に据えている点でこれはめずらしいし、原作者がサマセット・モームだけに、他の作品よりはシリアスで、現実味もある。スパイ活動が高度に発展する以前の第一次世界大戦中に時代を設定しているのでリアリティを欠くまでにいたらず、それも成功の一因となっている。
また、主人公がスパイとしての悩みをかかえることによって、活劇の爽快さよりアイロニーを色濃くたたえた作品になった。いやいやながらアシュンデンという名に変えさせられたブロディは人を殺すことに気がすすまない。最後に、成功を報告する手紙につづいて現れる主人公と恋人の悲しげな笑顔も一味ちがったヒッチコックの世界を感じさせた。現地ロケこそしていないが、物語の背景となっているスイスの風景、雪山やチョコレート工場など…を生かしているのはヒッチコック式だ。
悪役を演じたのは二枚目俳優ロバート・ヤングで上品で洗練され、一見やさしく、のちのヒッチコック映画に見られる「紳士的悪人」タイプの最初の登場となった。

間諜最後の日 – ストーリー

1916年の春、イギリスの小説家で陸軍大尉のブロディーは、情報部長Rに召喚された。彼はリチャード・アシェンデンという新しい名を貰い、スイスへ派遣された。スイスのジュネーヴにはドイツの間諜が暗躍しているので、その男の正体を突止めて抹殺せよ、というのがアシェンデンに下された使命だ。彼がスイスに着くと、アシェンデン夫人という名儀で女間諜エルサが先着していた。またアシェンデンの助手の「将軍」とあだ名の有るスパイも加わった。エルサはマーヴィンと名乗るアメリカ人と知り合い、マーヴィンはしきりに彼女に求愛した。アシェンデン等はランゲンタル村の教会のオルガン奏手がイギリス諜報部の手先となった事を知らされていたので訪れたが、一足先にドイツ間諜の為に扼殺されてしまっていた。唯一の手がかりは、殺された男が握っていた胡栗の殻の形をしたボタン一個だった。

三十九夜

The Thirty-Nine Steps/1935年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン/協同制作:アイヴァ・モンタギュ/原作:ジョン・バカン/脚本:チャールズ・ベネット、アルマ・レヴェル/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ロバート・ドーナット、マデリン・キャロル、ルシー・マンハイム

三十九夜 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の代表作のひとつである。ジョン・バカンの著名なスパイ小説「三十九段階」の映画化で「三十九夜」という日本のタイトルは「段階」では妙味がないとしてつけたまでのことだ。ヒッチコックは原作にかなり手を加えてヒッチコック筋立てに変えてある。
犯罪者と警察の両方から追われるという、その後ヒッチコックが好むことになるストーリーを土台に、次から次へと起こる事件、めまぐるしいばかりのスピーディーな展開に加えて、複雑なディテール描写など映画的なアイディアガ横湓し、以後のヒッチコック作品の基本的な要素が出揃った作品となった。
映画を撮るということはなによりもまず、ストーリーを語ることだが、ありきたりのストーリーであってはならない。ドラマティックで人間的でなければならない。要するに、人生から退屈な時間をすべてカットしたものだ、と言うヒッチコックの考え方そのままのストーリーが展開されるわけである。

三十九夜 – ストーリー

ロンドンのイーストエンドの或る寄席に、最近カナダから帰ったハネーは入った。舞台にミスタ・メモリーと称する記憶の達人が客から出され凡ゆる質問に答えて居た。其の時突如一発の銃声が起こった。観客は舞台を後へに出口へ殺到した。ハンネーは自分の身体にぴたりとついて来る女に助けを乞われ、自分のアパートへ取りあえず同行した。女は灯をつけるな、と頼む。そして女が言う通り、街角には怪しい男が二人立っている。女は自ら国際スパイであると語った。イギリスの国防に関する秘密を某国に売ろうとしているスパイ団を追跡中、寄席まで跡をつけた処を敵に感づかれ、ピストルを発射して混雑に紛れて逃げたのである、という。此の事件の首謀者はスコットランド高原に居る、小指の無い男で、彼女は其処へ急行するのだ、ということである。ハネーが一寝入りした所へ女が倒れて来た。その背にはナイフが立っている。「私の代わりにスコットランドへ行って下さい。」と言うと女は絶命した。ハネーは女殺しの下手人と目されることは必然である。当のスパイを捕らえて身の潔白を証明する外はない。ハネーは未明のスコットランド行の急行列車に乗り込んだ。

暗殺者の家

暗殺者の家 解説

すでに3本のサスペンス映画があるとはいえ、それまでにさまざまな題材を扱って試行錯誤をくり返していたヒッチコックであったが、この作品でサスペンス演出の本領を発揮し、サスペンス映画の巨匠として名実ともに生まれ変っていく契機となった。
各地をたどりながら犯人を追っていくというストーリー構成はおそらくヒッチコックのもっとも得意とするやり方であって、その後も「三十九夜」「北北西に進路をとれ」などをはじめとして、ヒッチコックの傑作にしばしば現れるばかりでなく、他ならぬこの物語も1956年にもう一度つくっている。「知りすぎていた男」がそれだが、ヒッチコックが自分自身で再映画化した唯一の例である。
物語のモデルとなったのは、今世紀初頭のロンドンで「画家ピーター」と呼ばれたアナーキストが一軒の家に閉じこもって政府要人を暗殺しようとし、警察が犯人を出てこさせるのに手こずった事件で、これを脚本家のチャールズ・ベネットがヒッチコックにすすめたと言われている。
暗殺団の首領アボットに扮したピーター・ローレは、ハンガリー生まれでドイツ映画、とりわけ「M」の異常性格の殺人者で注目された俳優で、これがイギリス映画初出演。もう1本ヒッチコックの「間諜最後の日」を経て、ハリウッドヘ渡った。また、冒頭で殺された特務員ルイにフランスの名優ピエール・フレネが扮しているのも興味深い。

暗殺者の家 ストーリー

スイスの観光パンフレット、雪の山々…。そう、ここはサン・モリッツのスキー場である。ロンドンに住むボブとジルのローレンス夫妻は娘のペティをつれてここで休暇を楽しんでいた。三人は射撃遊びをしたが、ジルは射撃の名人で、打ち上げられる標的を片っ端から命中させた。
三人はホテルに戻り、ホールでくつろいだが、ジルは、やはり観光客であるルイといら紳士をお気に召したようで、その男とダンスをしはじめた。軽い嫉妬をおぼえたボブは、そこにあった編みかけの毛糸をルイの上着にこっそり結びつけた。毛糸はどんどんほどけ、踊っている人たちの足にからまり、今にも踊りが混乱しそうになったちょうどそのとき、窓ガラスが割られた。と思いきや、ルイが倒れかかった。ルイは何者かに射殺されたのだ。息の絶える直前、ルイはジルに自室の鍵を渡しながら、「シェーヴィソグ・ブラシのなかにあるメモをイギリス情報局へ」とつぶやいた。
ジルからそれを伝えられたポブは、こっそりとルイの部屋へ忍びこみ、シェーヴィソグ・ブラシのなかからメモを取り出した。そこにはある日付とコンサート・ホールという場所が書かれていた。暗殺者の手も迫ってきた が、ボブはかろうじて逃れ、ホールでボーイをつかまえて、当地にイギリス領事館があるかどうかたずねた。だが、そのボーイときたら、いっこうに英語が通じぬ。そこへ別のボーイがポブに伝言の紙片を届けに来た。それを読んで驚いたボブは、事務所で取り調べられていたジルにその紙片を渡した。「知っていることをしゃべると、二度と娘に会えないだろう」…そう書かれていたのだ。それを読んでジルが卒倒したちょうどそのころ、 娘ベティを泣致した暗殺者の馬車は雪に覆われた山を下っていた。

暗殺者の家
英語タイトル:The Man Who Knew Too Much
公開:1934年
日本公開:1935年
時間:74分
白黒

制作:マイクル・バルコン
協同制作:アイヴァ・モンタギュ
原案:チャールズ・ベネット、D・W・ウインダム=リュイス
脚本:A・R・ロウリンスン、エドウィン・グリーンウッド、チャールズ・ベネット
追加台詞:エムリン・ウイリアムズ
撮影:カート・クーラント
編集:H・セント・C・ステュアート
美術:アルフレッド・ジャンジ、ピーター・プラウド
音楽:アーサー・ベンジャミン

ウィーンからのワルツ

Waltzes from Vienna/1933年/トム・アーノルド・プロ作品/白黒/原作:ガイ・ボルトン/脚本:アルマ・レヴィル、ガイ・ボルトン/撮影:ジャック・コックス/音楽:ヨハン・シュトラウス父子/出演:ジェシー・マシューズ、エズモンド・ナイト

ウィーンからのワルツ – 解説

若いころのヒッチコックはさまざまな題材を手がけているが、これはそのなかでも異色で、ヨハン・シュトラウス父子を主人公にした一種の楽聖メロドラマである。だが、よほど興味がなかったとみえ、以後ヒッチコックはこの作品のことをしゃべりたがらない。
影の使い方などドイツ映画の手法をたくみに消化したヒッチコックではあるが、ドイツ的な題材そのものには魅力を感じなかったようである。

ウィーンからのワルツ – ストーリー

ヨハンとシャニのシュトラウス父子は伯爵夫人をパトロンにしていた。伯爵夫人は息子のシャニがお気に入りで、シャニがパン屋の娘ラジに恋をすると、嫉妬から彼に音楽をやめ、自分と駆け落ちするよう迫った。

第17番

Number Seventeen/1932年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ジェファースン・ファージョン/脚色:アルフレッド・ヒッチコック/撮影:ジャック・コックス/出演:レオン・M・ライオン、アン・グレイ

第17番 – 解説

当時イギリスで有名だった舞台俳優レオン・M・ライオンのために書かれた戯曲からの映画化で、映画でも彼は主人公のベンに扮している。非常に安い制作費でつくられた喜劇だが、前半の廃屋のシークウェンスやサスペンス描写はとくにすばらしく、階段の描写や列車のミニチュアー・セットの使い方はヒッチコック的な完成の域に近づいたといわれた。また後半、列車をふんだんに使っているのもヒッチコックらしい。

第17番 – ストーリー

宝石泥棒を追っていた刑事は「第17番」と呼ばれる廃屋に来てベンという謎の男を、ついで女の死体を発見した。殺された女は父親を探していたことがわかる。宝石争奪戦の結果、三人の泥棒たちが貨物列車で逃げ出したため、刑事とベンは追跡した。途中、啞を装う冒険好きな若い女に出会って、ベンは彼女にひかれる。そして貨物船に列車がぶつかり、ベンと女だけが溺死からまぬがれた。実はベンは探偵であった。

リッチ・アンド・ストレンジ

Rich and Strange/1932年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原案:デイル・コリンズ/脚本:アルマ・レヴィル、ヴァル・ヴァレンタイン/撮影:ジャック・コックス、チャールズ・マーティン/出演:ヘンリー・ケンドール、ジョーン・バリー

リッチ・アンド・ストレンジ – 解説

ヒッチコック自身のアイディアによる映画化で、彼の得意とする、主人公たちが「各地を移動する設定」による作品である。マルセイユ、ポート・サイド、コロンボなどで大がかりなロケをするなど制作資金も充分にかけており、それゆえヒッチコック自身は気に入っているが、ヒットしなかったため、以後のヒッチコックの制作方針に影響を与えたといわれている。

リッチ・アンド・ストレンジ – ストーリー

フレッドとエミリーは平凡な若夫婦だったが、あるとき思わぬ遺産が転がりこんだ。そこで二人は変化のない生活をきりあげて中国への旅行にでかけた。慣れていない船旅に二人は苛立っていさかいを越こし、たがいに別パートナーに気をひかれたりする。やがて船はスエズ運河を経て東洋に達するが、そこで難破し、二人は中国のジャック船に助けられた。こうして若夫婦は数々の奇妙な体験をみやげに帰宅し、平凡で退屈な日常生活のなかにこそ本当の幸福があることを知った。

スキン・ゲーム

The Skin Game/1931年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ジョン・ゴールズワーシ/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、アルマ・レヴェル/撮影:ジャック・コックス、チャールズ・マーティン/出演:エドマンド・グウェン、ジョン・ロングデン

スキン・ゲーム – 解説

文豪ジョン・ゴールズワージの戯曲の忠実な映画化で、興行成績はよかったが、ヒッチコックは満足していない。ふたつの家をめぐる葛藤のドラマという主題は、ヒッチコック的ではなかったし、戯曲どおりセリフが多くなったことも、彼らしい映画とはならない原因をつくった。だが、主観的な移動ショットや速いパンで映像的効果をねらっている点ではさすがヒッチコックといわれる。

スキン・ゲーム – ストーリー

成金一家ホーンブローワ家の息子ロルフは、名家であるヒルクリスト家の令嬢ジルに恋をしてしまう。ロルフの父は、息子のためにヒルクリスト家に行き、結婚を認めてやってくれと頼むが断られる。ヒルクリスト家はロルフの義理の姉に隠された秘密を握っており、それをつかってホーンブローワ家の土地をゆすり取ろうとしていたのだった。

殺人!

Murder!/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:クレメンス・デイン、ヘレン・シンプスン/脚色:アルマ・レヴィル/潤色:アルフレッド・ヒッチコック、ウオルター・マイクロフト/撮影:ジャック・コックス/美術:ジョン・ミード/編集:エミール・デ・ルエル、ルネ・ハリスン/出演:ハーバート・マーシャル、ノラ・ベアリング、フィリス・コンスタム

殺人! – 解説

殺人事件の犯人にされている無実の疑惑を晴らすべく捜査にあたった男が、意外な犯人と動機見つけだすというストーリーは、古典的な犯人さがし物語であり、ヒッチコックがこうしたオーソドックスな謎解きに挑戦したのは例外的である。
トーキーの初期には、一般的に映画はセリフが多く、しかもそれを同時録音せねばならないのでカメラを固定化してしまう傾向があったが、ヒッチコックといえどもその傾向から逃れることはできなかった。さらにこれは戯曲「サー・ジョン登場」の映画化であり、それゆえにセリフの量も多く、カメラノ長まわしが多用される原因ともなった。それに対する細部の処理の数々はヒッチコック的だが、むしろ、面白いのは、劇場とそれをめぐる人々という設定はヒッチコックが後にも好んで使っているが、芝居の上演を行なって犯人を罠にかけるくだりや、劇場以外の室内のショットに舞台のプロセニアム・アーチを感じさせる構図を多用して、これを長まわしと組みあわせて全体を一貫させている。犯人がホモであり、女性的しぐさをし、女装の芸人であるという性格づけもヒッチコック的である。

殺人! – ストーリー

ロンドンのある劇団の花形女優エドナ・ドルースが殺された。現場には、同じ劇団の若い女優ダイアナ・ベアリング(ノラ・ベアリング)が火かき棒を持って呆然と立っていた。彼女は逮捕され、起訴される。裁判では陪審員のひとり、サー・ジョン・メニエ(ハーバート・マーシャル)の弁護もむなしく、ダイアナは死刑を宣告された。劇作家兼俳優にしてアマチュア探偵を気取るサー・ジョンには彼女の犯行とは思えず、単独で調査に乗り出す。彼はダイアナに面会するが、彼女には何やら事件について秘密があるらしい。サー・ジョンが事件を洗い直した結果、女装の空中ブランコ芸人、ハンデル・フェイン(エスメ・パーシー)が容疑者として浮かんできた。サー・ジョンは一計を案じ、今回の事件をモデルにした芝居を上演する計画を立てる。

ジュノーと孔雀

Juno and the Paycock/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ショーン・オケーシー/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、アルマ・レヴィル/撮影:ジャック・コックス/出演:セーラ・オルグッド、エドワード・チャップマン

ジュノーと孔雀 – 解説

アイルランドの生んだ劇作家ショーン・オケーシーの戯曲の映画化で、革命下のダブリンに住む一家を描く暗い内容の作品にもかかわらずヒットしたし、評価もよかったのは機関銃の音などサウンド効果が目新しかったかもしれない。だが、ヒッチコック的な題材ではなく、彼自身も乗り気になれない仕事だったので、戯曲にあまり手を加えず映画化したと語っている。女主人公の名である「ジュノ」とは、ギリシャ神話に出てくる女神ヘーラーのローマ名で、家政を司る神として現れるときに象徴として孔雀(アイルランドで方言ペイコック)を従えていることが多く、そこからとられた題名でもある。

ジュノーと孔雀 – ストーリー

革命運動が激しいダブリンに住む、夫妻とその息子と娘の4人家族。だが、まともに働いているのは妻だけで、夫は酒浸りで息子は罪を犯して指名手配中の身。そんな時、幸運らしき話が舞い込む。

エルストリー・コーリング

Elstree Calling/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/総監督:エイドリアン・ブラネル/脚本:ヴァル・ヴァレンタイン/同監督:アンドレ・シャルロ、ジャック・ハーバード、アルフレッド・ヒッチコック、ポール・マレー/撮影:クロード・フリーズ・グリーン/出演:ウィル・フィフィー、シシリー・コートニジー

エルストリー・コーリング – 解説

ヒッチコックをはじめ4人の監督による共作。発明されたばかりのTV放送を題材に取り、中継スタジオと放送される各家庭の模様を同時進行で描いて行くコメディ・タッチの作品。途中、ラインダンス等のシーンで2色のパート・カラーを用いる等、意欲的な実験が試みられている。故障で映らなくなったTVを直すため、終始悪戦苦闘する父親と一家が本編中に出て来るが、この部分が、ヒッチコックの担当パート。

ゆすり

1929年/白黒/原作チャールズ・ベネット/脚本アルフレッド・ヒッチコック、ベン・W・レヴィ、チャールズ・ベネット/出演アニー・オンドラ、セーラ・オルグッド、ジョン・ロングデン

ゆすり – 解説

ヒッチコック監督がイギリス時代に撮った初期のサスペンスで、当初サイレントとして作られたのを撮り直し、イギリス初のトーキー映画として仕上げられた作品。襲われそうになり、我が身を守るため相手をナイフで刺し殺してしまったヒロインと、その恋人で彼女を庇おうとする刑事のフランク。そして、そのことをネタに二人を恐喝しようともくろむ男のやりとりをスリリングに描いている。
ヒロインが自分の犯した罪に恐れる心情をナイフという言葉を連続して挿入し表現するなど、トーキー演出とイントロのサイレント・タッチの両方が楽しめる貴重品。

ゆすり – ストーリー

雑貸商の娘アリスは恋仲の刑事フランクと街へ遊びに行ったが、いさかいを起こし、男に誘われてついていった。男は画家で、自室に行くと、アリスは襲われそうになり、逆に男を殺してしまう。事件を担当したフランクは遺留品から犯人がアリスと知った。同じ頃、事件の真相を知った浮浪者がアリスたちをゆすりに来るが、この男は警察の要注意人物で、フランクはこの男に犯罪をなすりつけようとする。

マンクスマン

The Manxman/1929年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:サー・ホール・ケイン/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、マルカム・キーン

マンクスマン – 解説

「マンクスマン」とはアイルランド海に浮かぶマン島人のことで、サー・ホール・ケインの高名な小説を忠実に映画化している。開巻に出てくる「もし人、全世界を得るとも、己が魂を失わば、如何にせんや」という聖書の句を下じきにして、住民たちの人間ドラマを情緒的要素で一貫してとらえ、エリック・ローメルたちの評価は高い。「リング」についで「不倫の関係」を主題にしているのも見逃せない。

マンクスマン – ストーリー

幼いときから仲のよかった漁夫のピートと弁護士フィリップが、マン島へ戻って来た。旅館の娘ケイトを愛しているピートは彼女に結婚を申し込むが、貧乏を理由に彼女の父に断られた。そこでピートはケイトに必ず戻って来ると約束して出稼ぎに行くが、やがて彼女のもとにピートが死んだという知らせが伝わった。フィリップはケイトをなぐさめるが、実は彼もケイトを恋していたのである。ケイトはフィリップの愛を知り、彼女も彼に愛を告白した。ところが、そこへ死んだはずのピートが帰って来る。

シャンパーニュ

Champagne/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原案:ウォルター・c・マイクロフト/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:ベティ・バルフォア、ゴードン・ハーカー

シャンパーニュ – 解説

わがままな若い娘が世間を知るようになるアメリカ調の「道徳教育」的な物語である。ヒッチコックは、立ち聞きする女中、宝石、食事のシーンなど、後年得意とする演出や小道具の使用をこのころから用いはじめている。
大揺れの船上をまっすぐに歩く酔っ払いのギャグなどユーモラスなタッチが盛んに使われていて、そうしたタッチでの場面をしめくくる手法も目立ってきたようだ。

シャンパーニュ – ストーリー

億万長者の娘ベティは愛する男との結婚を父に反対され、家出してフランスへ行った。父はイカレ気味の娘に世間の厳しさを教えようとして破産したことにする。ベティはあるキャバレーにつとめるが、仕事として客たちにできるだけシャンパンを飲ませなければならない。このシャンパンこそ、彼女の父を財産家にした商品だった。

農夫の妻

The Farmer’s Wife/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:イーデン・フィルポッツ/脚色:アルフレッド・ヒッチコック/撮影:ジャック・コックス/出演:ジェームソン・トーマス、リリアン・ホール=デイヴィス

農夫の妻 – 解説

イギリスの劇作家イーデン・フィルポッソのヒット戯曲の映画化である。主人公が自分を理想的な結婚相手であると思いこむことから起こる田園喜劇で、ウェールズ地方の風景や風物の描き方や、そこから醸し出させる雰囲気に味わいを見せ、単純・素朴な作風であっても、それがほほえましい。

農夫の妻 – ストーリー

アップルクラス農場の主、男やもめのサミュエル・スィートランドは、一人娘を嫁に出し、寂しい思いをしていたが再婚を決意。住み込みの女中アラミタに相談を持ちかける。彼は、貴族の未亡人、未婚の農場主、女性郵便局長、それに居酒屋の女主人の名を上げるが、アラミタは不服そう。実は彼女は心ひそかにサムを想っていたが、まさかそれを口に出すわけにはいかない。サムは一本調子の男臭さで初めの三人に求婚するがいずれも断られて意気消沈し、最後の女主人には結局何も切り出せずにすごすご帰宅。そこでようやく“灯台下暗し”、美しく働き者のアラミタの存在に気づいたのだった。

リング

The Ring/1927年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/脚本:アルフレッド・ヒッチコック/潤色:アルマ・レヴェル/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、リリアン・ホール=デイヴィス

リング – 解説

ヒッチコックは、はじめてここで自分の原案によるオリジナルを手がけ、ヒッチコック夫人アルマ・レヴィルが潤色者としてはじめてクレジットされた。
ストーリーは一人の若い女をめぐる拳闘選手二人の葛藤であり、エリック・ロメールはここに早くも不倫の関係というヒッチコック的素材が現われていることを指摘しているが、演出の細部においても彼らしい工夫がいくつかある。また、原題の「リング」は、ボクシングのリングを示すとともに、ボブが、ネリーに贈った結婚指輪のことも意味している。なおこの作品は、これまでゲインズボロー社からBIP(ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ)に転じてのヒッチコックの第1作である。

リング – ストーリー

遊園地のさびれたボクシングの見せ物小屋のボクサー、ジャック。彼はそこでヘビー級チャンピオンに見出され、彼の練習役として働くことになる。しかしチャンピオンは同じ見せ物小屋の受付嬢でジャックの妻である女性と恋に落ち、彼女もまた彼に好意を抱いてゆく。そんな二人を後目に嫉妬に燃えるジャックは彼と戦い、妻を取り戻すため快進撃を続け、いつしか二人はリングで決着をつけることに。

ふしだらな女

Easy Virtue/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ノエル・カワード/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ/出演:イザベル・ジーンズ、ロビン・アーヴィン、フランクリン・ダイアル

ふしだらな女 – 解説

主人公に救いがないという点で、ヒッチコックのなかではめずらしいといわれるこの作品は、当時イギリスでもっても人気のあった劇作家ノエル・カワードの風俗劇の映画化である。電話の交換手の表情だけで結婚の約束を示すなど、「下宿人」と同様にスポークン・タイトル(無声映画の字幕)に頼らず映像で語ろうとした作品で、ディゾルヴや移動撮影にも工夫が見られる。

ふしだらな女 – ストーリー

ローリタ・フィルトンは酔いどれの夫と離婚したあと、若い芸術家と恋をするが、彼を自殺に追いやったため、悪名を高めてしまった。やがて、ローリタはジョン・ホワイトタッカーという貴族の青年に出会い、再婚する。ジョンは彼女の過去についてなにも知らなかったが、ジョンの母親がローリタの過去を洗い出し、息子を離婚させる。そして、追い込まれたローリタは破滅する。

下り坂

Downhill/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:アイヴァ・ノヴェロ、コンスタンス・コリアー/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ、ライオネル・リッチ/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ベン・ウェブスター

下り坂 – 解説

この作品の前につくった監督第3作「下宿人」で早くもスリラー映画を手がけたヒッチコックではあるが、その後ただちにスリラー映画専門となったのではない。この第4作ではふたたびメロドラマ的な世界へ戻っているのである。

下り坂 – ストーリー

ロンドンの良家の息子ロディはパブリック・スクールの生徒だったが、寄宿学校で盗みを働いたかどで退校させられてしまった。ほんとうは学友が犯人であることを知っていたが黙して語らない。さらに父親からも勘当され、そこで社会で出たロディは、ある女優と関係を結ぶが、そこにもいられなくなり、パリでプロのダンサーに転じ、社交界の人気者となった。

下宿人

The Lodger/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ベロック・ロウンデス/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/助監督:アルマ・レヴィル/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ジューン、マリー・オールト

下宿人 – 解説

これが最初のイギリスでの映画であり最初のサスペンス映画である。すなわち「ヒッチコック映画」と称すべきものの第一作。以後ヒッチコック作品にしばしば現われる「間違えられた男」という主題の最初の登場でもある。のちの「ヒッチコック・シャドウ」と呼ばれる視覚的効果を充分にとりいれている。

下宿人 – ストーリー

冬のロンドン、金髪の若い女性ばかりを狙う殺人鬼が現われる。ブロンド娘のデイジーの両親が営む下宿屋にひとりの男が部屋を借りる。怪しげな彼の行動に周囲の人びとは犯人ではないかと疑い始めるが、デイジーだけは彼を信じている。ついに、彼はデイジーの恋人の警察官に逮捕される。手錠のまま逃走。乗り越えようとした鉄柵に手錠がひっかかり宙吊りになってしまう。犯人逮捕の知らせに興奮した群衆が今にも彼につかみかかろうとする。そのとき真犯人逮捕の報が届く。男は殺人犯に妹を殺され、復讐のために犯人を探していたのだ。

山鷲

The Mountain Eagle/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/脚本:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ベルンハルト・ゲーッケ、ニタ・ナルディ

山鷲 – 解説

第1作にひきつづきドイツで作られたやはりメロドラマ。舞台がケンタッキーの山奥に設定され、サイレント期のアメリカの大女優ニタ・ナルディが主演をつとめているのは、制作者のマイケル・バルコンがアメリカ進出をねらったためである。アメリカでの公開題名は主要人物の綽名をとった“Fear o’ God”。ヒッチコックによれば「とてもひどい映画」ということになるが、プリントが現存しないため物語の詳細も不明だし、写真としてもフランソワ・トリュフォーによるインタヴューの本“Cinema selon Hitchcock”に掲載されている6コマがおそらく唯一のものである。

山鷲 – ストーリー

アルプス山間の一寒村に村人から「山鷲」と綽名されている青年がいた。彼の名はゴトフリードと言い正義を愛する豪快な気性を持ち村里から離れた山腹の侘びしい小屋に住んでいた。「山鷲」の存在を目の上の瘤として快く思わなかったのは村長のペーテルマンであった。彼は村一番の長者であり権勢家であったが生来貪欲な彼は不正な事も敢えて行ったことがあるからである。しかしペーテルマンも子の愛は持っていた。彼の息子のアマンヅスを立派な男とするため女教師ベアトリス・レーメルの許に遣した。彼はベアトリスが美人の評判が高いので息子ともしや間違いでもあってはと自ら彼女を訪れた。

快楽の園

The Pleasure Garden/1925年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン、エリック・ポマー/原作:オリヴァー・サンディス/脚色:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ヴァージニア・ヴァリ、カーメリタ・ゲラーティ

快楽の園 – 解説

ヒッチコックはイギリスの撮影所でサイレント映画の字幕デザインの仕事によって映画入りし、1922年に「第十三番」(または「ピーボディ夫人」)という映画を監督したが、本国でも未公開(または未完成)に終わった。その後、映画美術、助監督、共同監督などを務め、1925年にイギリスの制作者マイケル・バルコンに認められ、ドイツのミュンヘンにあるエメルカ撮影所で一本立ちの監督としてデビューすることになった。
そのヒッチコックの第1作「快楽の園」は皮肉な運命をえがくメロドラマで、ヒッチコック自身は特別の愛着を抱いていない。しかし、主人公の結婚の未来を暗示する不吉なショットや、全編を通じて構図やモンタージュにあらわれる線の交差する大胆な演出など、すでにヒッチコック・タッチを見ることができる。

快楽の園 – ストーリー

劇場「快楽園」の踊娘パッシーは或日踊娘志願の田舎娘ジルを救って自分の下宿に伴って来た。翌日機敏なジルは首尾よく雇われることが出来た。ジルにはヒュウという婚約者があったが彼はアフリカに出稼ぎに行って結婚費を得ようと出発した。彼の友人レヴェットはパッシーを恋して結婚しイタリアへ新婚旅行に出掛けた。ジルは次第に放縦に流れバッシーの意見を耳に入れずイヴァン公爵という遊蕩児をパトロンとすると共に支配人のハミルトンを抱込んで劇場の首尾をよくしたレヴェットもヒュウの後を追ってアフリカに赴き妻のことは忘れて恋を漁った。ヒュウはジルを想っていたがジルが公爵の愛妾となってしまったことを聞いて悲嘆せずにはいられなかった。