間諜最後の日

The Secret Agent/1936年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン、アイヴァ・モンタギュ/原作:サマセット・モーム/脚色:チャールズ・ベネット/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ジョン・ギルグッド、マテリン・キャロル、ピーター・ローレ、ピーター・ローレ、マデリーン・キャロル、ロバート・ヤング、リリー・パルマー

間諜最後の日 – 解説

ヒッチコックにはスパイを扱った作品がいくつかあるが、スパイその人と活躍を中心に据えている点でこれはめずらしいし、原作者がサマセット・モームだけに、他の作品よりはシリアスで、現実味もある。スパイ活動が高度に発展する以前の第一次世界大戦中に時代を設定しているのでリアリティを欠くまでにいたらず、それも成功の一因となっている。
また、主人公がスパイとしての悩みをかかえることによって、活劇の爽快さよりアイロニーを色濃くたたえた作品になった。いやいやながらアシュンデンという名に変えさせられたブロディは人を殺すことに気がすすまない。最後に、成功を報告する手紙につづいて現れる主人公と恋人の悲しげな笑顔も一味ちがったヒッチコックの世界を感じさせた。現地ロケこそしていないが、物語の背景となっているスイスの風景、雪山やチョコレート工場など…を生かしているのはヒッチコック式だ。
悪役を演じたのは二枚目俳優ロバート・ヤングで上品で洗練され、一見やさしく、のちのヒッチコック映画に見られる「紳士的悪人」タイプの最初の登場となった。

間諜最後の日 – ストーリー

1916年の春、イギリスの小説家で陸軍大尉のブロディーは、情報部長Rに召喚された。彼はリチャード・アシェンデンという新しい名を貰い、スイスへ派遣された。スイスのジュネーヴにはドイツの間諜が暗躍しているので、その男の正体を突止めて抹殺せよ、というのがアシェンデンに下された使命だ。彼がスイスに着くと、アシェンデン夫人という名儀で女間諜エルサが先着していた。またアシェンデンの助手の「将軍」とあだ名の有るスパイも加わった。エルサはマーヴィンと名乗るアメリカ人と知り合い、マーヴィンはしきりに彼女に求愛した。アシェンデン等はランゲンタル村の教会のオルガン奏手がイギリス諜報部の手先となった事を知らされていたので訪れたが、一足先にドイツ間諜の為に扼殺されてしまっていた。唯一の手がかりは、殺された男が握っていた胡栗の殻の形をしたボタン一個だった。