三十九夜

The Thirty-Nine Steps/1935年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン/協同制作:アイヴァ・モンタギュ/原作:ジョン・バカン/脚本:チャールズ・ベネット、アルマ・レヴェル/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ロバート・ドーナット、マデリン・キャロル、ルシー・マンハイム

三十九夜 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の代表作のひとつである。ジョン・バカンの著名なスパイ小説「三十九段階」の映画化で「三十九夜」という日本のタイトルは「段階」では妙味がないとしてつけたまでのことだ。ヒッチコックは原作にかなり手を加えてヒッチコック筋立てに変えてある。
犯罪者と警察の両方から追われるという、その後ヒッチコックが好むことになるストーリーを土台に、次から次へと起こる事件、めまぐるしいばかりのスピーディーな展開に加えて、複雑なディテール描写など映画的なアイディアガ横湓し、以後のヒッチコック作品の基本的な要素が出揃った作品となった。
映画を撮るということはなによりもまず、ストーリーを語ることだが、ありきたりのストーリーであってはならない。ドラマティックで人間的でなければならない。要するに、人生から退屈な時間をすべてカットしたものだ、と言うヒッチコックの考え方そのままのストーリーが展開されるわけである。

三十九夜 – ストーリー

ロンドンのイーストエンドの或る寄席に、最近カナダから帰ったハネーは入った。舞台にミスタ・メモリーと称する記憶の達人が客から出され凡ゆる質問に答えて居た。其の時突如一発の銃声が起こった。観客は舞台を後へに出口へ殺到した。ハンネーは自分の身体にぴたりとついて来る女に助けを乞われ、自分のアパートへ取りあえず同行した。女は灯をつけるな、と頼む。そして女が言う通り、街角には怪しい男が二人立っている。女は自ら国際スパイであると語った。イギリスの国防に関する秘密を某国に売ろうとしているスパイ団を追跡中、寄席まで跡をつけた処を敵に感づかれ、ピストルを発射して混雑に紛れて逃げたのである、という。此の事件の首謀者はスコットランド高原に居る、小指の無い男で、彼女は其処へ急行するのだ、ということである。ハネーが一寝入りした所へ女が倒れて来た。その背にはナイフが立っている。「私の代わりにスコットランドへ行って下さい。」と言うと女は絶命した。ハネーは女殺しの下手人と目されることは必然である。当のスパイを捕らえて身の潔白を証明する外はない。ハネーは未明のスコットランド行の急行列車に乗り込んだ。