殺人!

Murder!/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:クレメンス・デイン、ヘレン・シンプスン/脚色:アルマ・レヴィル/潤色:アルフレッド・ヒッチコック、ウオルター・マイクロフト/撮影:ジャック・コックス/美術:ジョン・ミード/編集:エミール・デ・ルエル、ルネ・ハリスン/出演:ハーバート・マーシャル、ノラ・ベアリング、フィリス・コンスタム

殺人! – 解説

殺人事件の犯人にされている無実の疑惑を晴らすべく捜査にあたった男が、意外な犯人と動機見つけだすというストーリーは、古典的な犯人さがし物語であり、ヒッチコックがこうしたオーソドックスな謎解きに挑戦したのは例外的である。
トーキーの初期には、一般的に映画はセリフが多く、しかもそれを同時録音せねばならないのでカメラを固定化してしまう傾向があったが、ヒッチコックといえどもその傾向から逃れることはできなかった。さらにこれは戯曲「サー・ジョン登場」の映画化であり、それゆえにセリフの量も多く、カメラノ長まわしが多用される原因ともなった。それに対する細部の処理の数々はヒッチコック的だが、むしろ、面白いのは、劇場とそれをめぐる人々という設定はヒッチコックが後にも好んで使っているが、芝居の上演を行なって犯人を罠にかけるくだりや、劇場以外の室内のショットに舞台のプロセニアム・アーチを感じさせる構図を多用して、これを長まわしと組みあわせて全体を一貫させている。犯人がホモであり、女性的しぐさをし、女装の芸人であるという性格づけもヒッチコック的である。

殺人! – ストーリー

ロンドンのある劇団の花形女優エドナ・ドルースが殺された。現場には、同じ劇団の若い女優ダイアナ・ベアリング(ノラ・ベアリング)が火かき棒を持って呆然と立っていた。彼女は逮捕され、起訴される。裁判では陪審員のひとり、サー・ジョン・メニエ(ハーバート・マーシャル)の弁護もむなしく、ダイアナは死刑を宣告された。劇作家兼俳優にしてアマチュア探偵を気取るサー・ジョンには彼女の犯行とは思えず、単独で調査に乗り出す。彼はダイアナに面会するが、彼女には何やら事件について秘密があるらしい。サー・ジョンが事件を洗い直した結果、女装の空中ブランコ芸人、ハンデル・フェイン(エスメ・パーシー)が容疑者として浮かんできた。サー・ジョンは一計を案じ、今回の事件をモデルにした芝居を上演する計画を立てる。