1955年/カラー/原作デイヴィッド・ダッジ/脚本ジョン・マイケル・ヘイズ/出演ケイリー・グラント、グレース・ケリー
泥棒成金 – 解説
1950年代の半ばといえば「ローマの休日」「旅情」「愛の泉」など、ヨーロッパの観光名所を舞台にしたロマンティックな作品がアメリカで流行していた。「ローマの休日」は白黒だが、テクニカラー技術の進歩もあいまってロケの魅力が存分に発揮されたのである。もともと観光名所を舞台に選ぶのが好きなヒッチコックは、この時代の傾向もうまく利用し、きわだってはなやかな作品に仕立てている。南フランス、リヴィエラのカンヌとニースの街や海岸の風景、花市場の美しさ、ヘリコプターによる車を追ったカメラの鮮やかさ、遠景の使い方、仮装舞踏会の色彩の楽しさなど、テクニカラーの技術を存分に生かしてあり、撮影監督のロバート・バークスはこれによって1955年度アカデミー賞の色彩撮影賞を得ている。
デイヴィッド・ダッジの小説からの映画化だが、ヒッチコックは「裏窓」で登場させなかったのについで、ここでも宝石泥棒という多少ユーモラスな犯罪をあつかって多分にくつろいだ雰囲気にしている。ストーリー性もそれほどつよくはなく、追われながら真犯人を探す主人公の立場ものんびりしている。
ケイリー・グラントとグレース・ケリー。ヒッチコック映画にもっともふさわしい二人を主演に選んだことも的確であり、グレイスを、はじめは無感動で冷たい女と登場させながら、ラブ・シーンでは燃えるような女に変貌させ、しかも夜空の花火をあしらうなど、恋愛描写の巧みさも絶妙である。