バルカン超特急

The Lady Vanishes/1938年/ゲインズボロー作品/白黒/製作:エドワード・ブラック/原作:エセル・リナ・ホワイト/脚色:シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー/撮影:ジャック・コックス/音楽:ルイス・レヴィ/出演:マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイブ、ポール・ルーカス、メイ・ウィッティ、ノーントン・ウェイン、ベイジル・ラドフォード

バルカン超特急 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の最高傑作といわれるこの作品には、たしかにみごとな完成感がある。ヒッチコック映画のさまざまなジャンルにまたがる要素を含んでいて、しかもそれぞれのジャンルとして一級であることからくる完成感と言えばいいだろうか。
列車を舞台にしていることがいかにもヒッチコック好みである。サスペンスと列車を結びつけた作品は数多いが、列車サスペンス物の最高水準を示している。
最初にいがみあっていた男女が、さまざまな事態を経るうちに次第に心を惹かれていき、最後に結ばれるというスタイルもヒッチコック調だが、その点でも理想的な運びをみせている。「バルカン超特急」は舞台が列車という特殊な場であるだけに二人の関係の扱い方はごまかしがきかないのだが、うまく処理して成功しているのである。また、この映画では主人公が若い女性で、それを男が助けるという形になっているが、この種のヒッチコック作品の定石として、男が中心となり、それを女が助けるという形が逆になっているのも面白い。また、暗号がメロディになっているところも、この物語の魅力のひとつである。

バルカン超特急 – ストーリー

ルカンの避暑地バンドリカ(仮想国)からロンドンへ帰る列車に乗ったアイリス(M・リックウッド)は、豪雪で立往生した列車から他の客と共にホテルへ避難した。客の顔ぶれはクリケット狂のカルディコット(ノーントン・ウェイン)にチャータース(B・ラドフォード)、弁護士と女、貴婦人フロイ(メイ・ウィッティ)等。アイリスがホテルで寝ようとすると客の一人のギルバート(マイケル・レッドグレーヴ)が大騒ぎを始め、二人はいがみ合う。と、聞えてくるギターの調べ。その歌声はミス・フロイの部屋の窓の下でやんだ。ギター弾きの背後に忍ぶ大きな影。翌朝、ダイヤは回復し、出発の準備をしているアイリスの頭に植木の箱が。軽い打撲傷ですんだものの、彼女の前を横切ったのはミス・フロイだった。列車で二人は偶然にも同室となる。一眠りしたアイリスが起きた時、ミス・フロイは消えていた。