ファミリー・プロット

ファミリー・プロット:解説

77歳、53本目のヒッチコック映画。そして彼の最後の作品。「フレンジー」でよみがえった演出の冴えはそのまま持続され、小粒ではあっても独得の魅力を発揮している。ヴィクター・カニングの小説「レインバード・パターン」が原作であるが、ヒッチコックは「フレンジー」にひきつづいて、2組(前回は二人であったが、今回は2組)を並行描写するという構成をとっている。善意で相続人を見つけてやろうとするが、しかし小悪党であるカップルが偶然に車ではねそうになった女。その女と愛人の男はじつはもっとワル賢いカップルで……。映画はふたつの“プロット”を一見脈絡なさそうに進展させるが、とみせかけて、もちろんこのふたつは交錯していくのであり、そこになんともいえない面白味がある。アクセルとブレーキをきかなくされた車が山道をつっ走って行くくだりなどにサスペンスも盛りこんでいるが、むしろそうした興奮よりは、2組が交錯していく過程を、全体にのんびりした味で軽妙酒脱さを感じさせるように撮っている、そのユーモア感覚をこそ愛すべき作品。

ファミリー・プロット:ストーリー

暗い部屋で緑色に光っている水晶球を前に、ブランチ・タイラーは降霊状態にあった。依頼主は大金持のジュリア・レイン・ハード老夫人。夫人は霊を呼びだして、自分の死んだ妹の私生児の行方を探し、その人物に財産を贈与したいと考えている。降霊術師のブランチが霊を呼ぶことに成功し、甥の行方を探りあててくれれば1万ドルの謝礼をあげる、とレイン・ハード夫人は言った。
ブランチはレインパード家の門前で待っていたタクシーに乗り込んだ。運転手はジョージ・ラムレー。ロサンジェルスのだだっ広い道を走らせるうち、二人の会話から、じつはラムレーとブランチは恋人同士であり、ラムレーは俳優としてはちっとも売れないので、タクシーの運転手をし、さらにブランチの降霊術のために依頼事項の下調べをしていることがわかる。つまりプランチの降霊というのはかなりいかさまで、ラムレーの調査によって成り立っているのである。ブランチはラムレーにさっそく1万ドルの大仕事の件を打ち明けた。
すでに夜のとばりは降りていた。ラムレーはブランチとのそんな会話に夢中になっていたため、大通りを右手から左手に横切ろうとした女性をあやうくはねそうになってしまった。その女は、大きな帽子にサングラス、ブーツ・スタイルで全身黒づくめ、髪だけがブロンドである。女はそのまま警察のパイロット養成所のゲートに向かった。守衛は待っていたように事務所に通した。女は拳銃をかまえた。そして、「ダイヤは渡すから、人質が無事なことを証明してくれ」と言われると、女はひと言もきかず、メモを見せた。係官がダイヤモンドを出すと、女はそれをしまい、待機していたヘリコプターに乗り込んだ。ヘリコプターのパイロットは、「人質さえとられてなけりゃお前なんかここから逆さまに落としてやるんだが」とすごんだが、女は相変わらず無言のまま、突然発砲して、窓に穴を開けた。そして着陸しろと真下を指さした。そこはゴルフ場だ。そのゴルフ場のどまんなかに着陸させると、女は林のなかに駆けこんで、待っていた男にダイヤを渡した。ヘリコプターのパイロットは林のなかで明りが見えたので走って行ったが、そこには人質だけが倒れていて、女の姿はすでに消えていた。

フレンジー

フレンジー:解説

アルフレッド・ヒッチコック監督が、生まれ故郷のロンドンに帰ってつくったサスペンス編。製作・監督はアルフレッド・ヒッチコック。アーサー・ラ・バーンの原作をアンソニー・シェーファーが脚色。撮影はギル・テイラー、音楽はロン・グッドウィン、編集はジョン・シンプソンが各々担当。出演はジョン・フィンチ、アレック・マッコーエン、バリー・フォスター、バーバラ・リー・ハント、アンナ・マッセイ、ヴィヴィアン・マーチャントなど。

フレンジー:ストーリー

ロンドンを流れるテムズ河岸に、首に縞柄のネクタイをまきつけた全裸の女の死体が打ちあげられた。その頃、リチャード・ブラニー(ジョン・フィンチ)は勤め先の酒場をクビになり、友人のラスク(バリー・フォスター)のところにやってきた。それから2年前に離婚したブレンダ(バーバラ・リー・ハント)の経営する結婚相談所にきて、自分の不遇を訴えた。翌日、ブレンダのオフィスにロビンソンという偽名を使ってラスクがやってきてブレンダを凌辱し、ネクタイで絞殺した。ラスクが帰って数分後、ブラニーが訪れたが、鍵がかかっていたため引き返そうとする姿をブレンダの秘書が目撃した。そのために彼は殺人犯として追われる身になった。

トパーズ

1969年/カラー/原作レオン・ユリス/脚本サミュエル・テイラー/出演フレドリック・スタフォード、ダニー・ロバン、ジョン・ヴァーノン

トパーズ – 解説

「引き裂かれたカーテン」以来、3年ぶりにメガホンをとった作品。62年のキューバ危機、緊迫化する東西両陣営の背後で暗躍するスパイを描いた作品。製作・監督はアルフレッド・ヒッチコック、共同製作はハーバート・コールマン。レオン・ユーリスの同名小説をサム・テイラーが脚色。撮影はジャック・ヒルドヤード、音楽はモーリス・ジャール、編集はウィリアムス・H・ジーグラーがそれぞれ担当。出演は「アルデンヌの戦い」のフレデリック・スタフォード、「渚のデイト」のダニー・ロバン、「冷血」のジョン・フォーサイス、「夕陽に向って走れ」のジョン・ヴァーノン、「007は二度死ぬ」のカリン・ドール、「昼顔」のミシェル・ピコリ、「夜霧の恋人たち」のクロード・ジャド、その他にフィリップ・ノワレ、ミシェル・シュボールなど。

トパーズ – ストーリー

1962年のある日、政府の製作に批判的だったソ連の高官クセノフが、CIA(アメリカ中央情報局)のノルドストロム(ジョン・フォーサイス)の協力により妻と娘を伴いアメリカに亡命した。この情報は、ある情報組織の長であるアンドレ(フレデリック・スタフォード)にも伝わった。彼はただちに親友であるノルドストロムに会い、互いの情報を交換しあった。クセノフの話すところによると、ソ連がキューバに補給している軍需品の覚書は、国連のキューバ主席代表が所持している、とのことだった。アンドレは、妻のニコール(ダニー・ロバン)、娘のミシェル(クロード・ジャド)、その夫フランソワ(ミシェル・シュボール)を伴ってニューヨークに行き、再度ノルドストロムに会った。その時、彼から依頼された通商条約書を、アンドレは首尾よくキューバ主席代表パラ(ジョン・ヴァーノン)から写しとった。

引き裂かれたカーテン

引き裂かれたカーテン
1966年/カラー/脚本ブライアン・ムーア/出演ポール・ニューマン・ジュリー・アンドリュース、リラ・ケドロヴァ

引き裂かれたカーテン – 解説

ヒッチコック監督の50本記念作品。ブライアン・ムーアが自分の原作を脚色、「マーニー」のヒッチコックが演出したスパイ推理ドラマ。撮影をジョン・F・ウォレン、音楽はジョン・アディソンが担当している。主演は、「動く標的」のポール・ニューマンと「サウンド・オブ・ミュージック」のジュリー・アンドリュース。彼等をめぐり「その男ゾルバ」のリラ・ケドロワ、「栄光への脱出」のルドウィヒ・ドナート、バレリーナのタマラ・トゥマノヴァが絡んでいる。製作も、ヒッチコックが兼ねている。

引き裂かれたカーテン – ストーリー

アメリカからデンマークへ向かう1隻の客船。この船には、コペンハーゲンで開催される科学者国際会議に出席するため米宇宙委員会のマイケル(ポール・ニューマン)と婚約者で秘書のセーラ(ジュリー・アンドリュース)が乗っていた。そして目的地へ着く直前の日、マイケルの所へ秘密の連絡文が届いた。発信地は東ベルリンだった。コペンハーゲンへ行くのを止めて、東ベルリンへ行くといいだしたマイケルに、不安になったセーラは事の真相を糺したが、心配する必要はない、2、3日コペンハーゲンで待っているようにと笑うだけだった。何か重大なことがあると直感したセーラは、マイケルを追って東ベルリンへ向かった。

マーニー

1964年/カラー/原作ウィンストン・グレアム/脚本ジェイ・プレッスン・アレン/出演ティッピ・ヘドレン、ショーン・コネリー、ダイアン・ベイカー

マーニー – 解説

ウインストン・グラハムの原作をジェイ・プレッソン・アレンが脚色、「鳥」のアルフレッド・ヒッチコックが製作・演出したミステリー・ドラマ。撮影はロバート・バークス、音楽はバーナード・ハーマンが担当した。出演は「鳥」のティッピー・ヘドレン、「わらの女」のショーン・コネリー、「逆転」のダイアン・ベーカーほかに、アラン・ネイピア、ルイーズ・ラサム、マーティン・ゲーベルなど。

マーニー – ストーリー

R社にマーニー(ティッピー・ヘドレン)と名のる女が求職に応募した。面接したマーク(ショーン・コネリー)は彼女が金庫泥棒であることを見破っていたが、彼女にひかれるまま、雇うことにした。やがて機会が訪れると、彼女は金庫から紙幣を盗み出し、いつものように遠い田舎の農場に逃げた。だが、事情を見抜いていたマークが駆けつけていた。彼は彼女の盗癖を彼女も意識しない隠れた原因だと考えていた。彼は衝動的に彼女と結婚しようと決意した。2人は新婚旅行に出かけたが、彼が花嫁を抱擁しようとすると、異常なおびえをみせて彼を避け、彼のどのような愛情の表現に対しても、身体を縮めてしりごみした。

鳥
1964年/カラー/原作ダフネ・デュ・モーリア/脚本エヴァン・ハンター/出演ロッド・テイラー、ティッピ・ヘドレン、ジェシカ・ダンティ

鳥 – 解説

鳥が人間を嫌い、食いちぎるという残酷な恐怖ドラマ。原作は女流作家ダフネ・デュ・モーリアの「鳥」であり、それを「逢うときはいつも他人」のエヴァン・ハンターが脚色した。監督は「ロープ」のアルフレッド・ヒッチコック、撮影は「結婚泥棒」のロバート・バークス、特殊撮影はアブ・アイワークス、音楽はレミ・ガスマンとオスカー・サラの2人。出演者は「海賊魂」のロッド・テイラー、「40ポンドのトラブル」のスザンヌ・プレシェット、「青年」のジェシカ・タンディ、チャールズ・マグロー、新人女優ティッピー・ヘドレンなど。

鳥 – ストーリー

突然、舞い降りてきた1羽のかもめが、メラニー・ダニエルズ(ティッピー・ヘドレン)の額をつつき飛び去った。これが事件の発端だった。不吉な影がボデガ湾沿いの寒村を覆った。若い弁護士ブレナー(ロッド・テイラー)は異様な鳥の大群を見て、ただならぬ予感に襲われた。そして、ほどなくブレナーの予感は現実となった。鳥の大群が人間を襲い始めたのだ。アニー(スザンヌ・プレシェット)の勤める小学校の庭では、無数のかもめが生徒を襲撃した。

サイコ

サイコ
1960年/白黒/原作ロバート・ブロック/脚本ジョゼフ・ステファーノ/出演ジャネット・リー・アンソニー・パーキンス、ヴェラ・マイルズ

サイコ – 解説

原作はロバート・ブロックの推理小説。脚色を「黒い蘭」のジョセフ・ステファノがうけもつ。撮影と音楽はジョン・L・ラッセルとバーナード・ハーマンがそれぞれ担当。出演は「のっぽ物語」のアンソニー・パーキンスのほかジョン・ギャビン、ジャネット・リー、ベラ・マイルズら。製作もヒッチコック。

サイコ – ストーリー

アリゾナ州の小さな町ファーベル。そこの不動産会社に勤めているマリオン・クレーン(ジャネット・リー)は隣町で雑貨屋をひらいているサム・ルーミス(ジョン・ギャビン)と婚約していたが、サムが別れた妻に多額の慰謝料を支払っているために結婚できないでいた。土曜の午後、銀行に会社の金4万ドルを収めに行ったマリオンは、この金があればサムと結婚できるという考えに負けて隣町へ車で逃げた。夜になって雨が降って来たので郊外の旧街道にあるモーテルに宿を求めたマリオンは、モーテルを経営するノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)に食事を誘われた。

北北西に進路を取れ

北北西に進路を取れ
1959年/カラー/脚本アーネスト・レーマン/出演ケイリー・グラント、エヴァ・マリー・セイント、ジェームズ・メイスン

北北西に進路を取れ – 解説

スリラー映画お得意のアルフレッド・ヒッチコックが「めまい」につづいて監督した、恋とスリルに満ちたサスペンス・ドラマ。脚本をアーネスト・リーマンが書下し、「黒い蘭」のロバート・バークスが撮影を、音楽はバーナード・ハーマンが担当している。出演は「無分別」のケーリー・グラント、「愛情の花咲く樹」のエヴァ・マリー・セイント、「針なき時計」のジェームズ・メイスン、他にジェシー・ロイス・ランディス、レオ・G・キャロル等。製作アルフレッド・ヒッチコック。テクニカラー・ビスタビジョン。1959年作品。

北北西に進路を取れ – ストーリー

広告代理業者ロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グラント)は、ニューヨークのホテルから無理やり2人の男に連れ出された。給仕がキャプランという男を呼びだしていた時、電話に立ち上がったので、間違えられたのだ。海の近くの邸宅で、主人のタウンゼントと称する男(ジェームズ・メイスン)は“仕事”への協力を強いた。断ると、彼を泥酔させ、車のまま海へ突き落とそうとした。危く逃れたが、パトロールカーに酔っぱらい運転で捕まった。翌日の裁判では、彼の母からまで信用されなかった。例の邸宅の夫人は、彼をパーティに招いたと証言した。

めまい

めまい
1958年/カラー/原作ピエール・ポワロー、トーマ・ナルスジヤック/脚本アレック・コペル、サミュエル・テイラー/出演ジェームズ・スチュアート、キム・ノヴァク、バーバラ・ベル・ゲディス

めまい – 解説

「間違えられた男」につづくアルフレッド・ヒッチコック監督のスリラー。クルウゾーの「悪魔のような女」の原作を書いたピエール・ボアローと、トーマス・ナルスジャックの共作小説から、アレック・コッペルと「モンテカルロ物語」サム・テイラーが共同脚色した、伝奇的なロマンとニューロティックなスリラー手法をないまぜた一編。撮影監督は「間違えられた男」「ハリーの災難」のロバート・バークス。サンフランシスコ周辺の風光がロケによって生かされている。音楽はバーナード・ハーマン。出演者は「知りすぎていた男」「翼よ!あれが巴里の灯だ」のジェームズ・スチュアートに「愛情物語」「夜の豹」のキム・ノヴァクが顔を合わせる他、「暗黒の恐怖」のバーバラ・ベル・ゲデス、「バラの肌着」のトム・ヘルモア等。キム・ノヴァクは2つの役柄を演じわけてみせる。製作はヒッチコック自身。「悲しみよこんにちは」のソール・バスがタイトル・デザインを担当している。

めまい – ストーリー

元刑事のジョン・ファーガスン(ジェームズ・スチュアート)は、屋上で犯人追跡中に同僚を墜死させたことから、高所恐怖症にかかって今は退職していた。商業画家の女友達、ミッジ(バーバラ・ベル・ゲデス)の所だけが、彼の気の安まる場所だった。そんなある日、昔の学校友達ゲビン・エルスターから電話があって、彼はその妻の尾行を依頼された。美しい妻のマドレイヌ(キム・ノヴァク)が、時々、昔狂って自殺した曽祖母のことを口走っては、夢遊病者のように不可解な行動に出るというのだ。しかも、彼女は、まだ自分にそんな曽祖母のあったことは、知らぬ筈だという。翌日から、ジョンの尾行がはじまった。

間違えられた男

1957年/白黒/原作マックスウェル・アンダースン(実録)/脚本マックスウェル・アンダースン、アンガス・マクファル/出演ヘンリー・フォンダ、ウェラ・マイルズ、アンソニー・クエイル

間違えられた男 – 解説

アルフレッド・ヒッチコックが「知りすぎていた男」に続いて監督したスリラー映画。原作は「悪い種子」のマクスウェル・アンダーソンが書いたが、題材は1953年、ニューヨークで起こった事件に基づくノン・フィクション。アンダースンと「知りすぎていた男」のアンガス・マクフェイルが共同で脚色した。撮影は「放浪の王者(1956)」のロバート・バークス、音楽は「灰色の服を着た男」のバーナード・ハーマンが担当した。主演は「戦争と平和」のヘンリー・フォンダ、「捜索者」のヴェラ・マイルズ、「戦艦シュペー号の最後」のアンソニー・クェイル。

間違えられた男 – ストーリー

ニューヨークのストーク・クラブでバスを弾く貧乏楽士マニイ・バレストレロ(ヘンリイ・フォンダ)は妻のローズ(ヴェラ・マイルズ)の歯の治療代300ドルを工面するため、ある日、ローズの保険証書を抵当に金を借りようと保険会社の門をたたいた。窓口係のデナリーが、ふとマニイの顔を見て驚いた。忘れもしない、この事務所に2度も強盗に押入った男の顔とそっくり。デナリーは態よくマニイを待たしておいて警察へ急報。マニイは刑事主任バワースとマシューズ刑事によって第110区の警察署へ連行された。

知りすぎていた男

956年/カラー/原作チャールズ・ベネット、D・B・ウィンダム=リュイス/脚本ジョン・マイケル・ヘイス、アンカス・マクファイル/出演ジェームズ・スチュアート、ドリス・ティ、ダニエル・ジェラン

知りすぎていた男 – 解説

英国時代にヒッチコックが作った「暗殺者の家」の再映画化で、原作はチャールズ・ベネットとP・B・ウィンダム・ルイス。脚色は「ハリーの災難」のジョン・マイケル・ヘイズとアンガス・マクフェイル、撮影監督は、「ハリーの災難」のロバート・バークス。音楽はバーナード・ハーマン。主演は「カービン銃第1号」のジェームズ・スチュアートと「情欲の悪魔」のドリス・デイ。

知りすぎていた男 – ストーリー

アメリカの医者ベン・マッケナ(ジェームズ・スチュアート)はブロードウェイのミュージカル・スターだったジョー夫人(ドリス・デイ)と、7歳になる息子ハンクを連れて、パリでひらかれた医学会議に出席した後フランス領モロッコへ旅をした。カサブランカからマラケシュへ行く途中、バスの中でマッケナ夫妻がアラビア人の男に捕って困っているとき、ルイ・ベルナール(D・ジェラン)というフランス人の若い男に助けられる。

ハリーの災難

ハリーの災難
1956年/カラー/原作ジヤック・トレヴァー・ストーリー/脚本ジョン・マイケル・ヘイズ/出演エドモンド・グウェン、ジョン・フォーサイス、シャーリー・マクレーン

ハリーの災難 – 解説

「泥棒成金」に次いでアルフレッド・ヒッチコックが製作・監督した、死体をめぐるスリラー喜劇。原作はアメリカの新進作家で異色題材を扱うことで知られているジャック・トレヴァー・ストーリー。脚色は、「泥棒成金」のジョン・マイケル・ヘイス、撮影は「裏窓」のロバート・バークスと、いずれもヒッチコック作品ではお馴染みのスタッフの他、音楽はバーナード・ハーマンが担当している。なお、歌曲“旗をふって列車をタスカルーサへ”はマック・デイヴィッド作詞、レイモンド・スコット作曲。主な出演者は、ブロードウェイの舞台でダンサーとしての才能をうたわれたシャーリー・マクレーンの抜擢をはじめ、「北京超特急」のエドモンド・グウェン、「ブラボー砦の脱出」のジョン・フォーサイス、「ダニー・ケイの黒いキツネ」のミルドレッド・ナットウィック、「セールスマンの死」のミルドレッド・ダンノックなど。

ハリーの災難 – ストーリー

もみじの美しいヴァーモント州の森の中で不思議な事件がおこった。4つになった男の子アーニー・ロジャース(ジェリー・マシューズ)が森に遊びに行って、男の死体を見つけた。村の人々のなかにこの男を殺す動機を持っていると疑われるものがいた。死体はハリーという男だった。映画の主役はこのハリーの死体なのである。死体が発見された時、もと船長であったアルバート・ワイルスという中年の男(エドモンド・グエン)は、兎を射っていて、あやまって殺人を犯したものと信じてしまった。ミス・グレヴリーという中年女(ミルドレッド・ナットウィック)は森の中でハリーに襲われ、ハイ・ヒールのかかとで頭をなぐりつけたので、それが死因であると思い込んでしまった。

泥棒成金

泥棒成金
1955年/カラー/原作デイヴィッド・ダッジ/脚本ジョン・マイケル・ヘイズ/出演ケイリー・グラント、グレース・ケリー

泥棒成金 – 解説

1950年代の半ばといえば「ローマの休日」「旅情」「愛の泉」など、ヨーロッパの観光名所を舞台にしたロマンティックな作品がアメリカで流行していた。「ローマの休日」は白黒だが、テクニカラー技術の進歩もあいまってロケの魅力が存分に発揮されたのである。もともと観光名所を舞台に選ぶのが好きなヒッチコックは、この時代の傾向もうまく利用し、きわだってはなやかな作品に仕立てている。
南フランス、リヴィエラのカンヌとニースの街や海岸の風景、花市場の美しさ、ヘリコプターによる車を追ったカメラの鮮やかさ、遠景の使い方、仮装舞踏会の色彩の楽しさなど、テクニカラーの技術を存分に生かしてあり、撮影監督のロバート・バークスはこれによって1955年度アカデミー賞の色彩撮影賞を得ている。
デイヴィッド・ダッジの小説からの映画化だが、ヒッチコックは「裏窓」で登場させなかったのについで、ここでも宝石泥棒という多少ユーモラスな犯罪をあつかって多分にくつろいだ雰囲気にしている。ストーリー性もそれほどつよくはなく、追われながら真犯人を探す主人公の立場ものんびりしている。
ケイリー・グラントとグレース・ケリー。ヒッチコック映画にもっともふさわしい二人を主演に選んだことも的確であり、グレイスを、はじめは無感動で冷たい女と登場させながら、ラブ・シーンでは燃えるような女に変貌させ、しかも夜空の花火をあしらうなど、恋愛描写の巧みさも絶妙である。

泥棒成金 – ストーリー

パリの大警視ルピックが南仏リヴィエラにやってきたのは、戦前 「猫」と異名をとった、稀代の宝石泥棒のジョン・ロビー(ケーリー・グラント)がまたまた活躍をはじめたという情報が入ったからであった。しかし当のロビーは、戦後は堅気になり、リヴィエラに別荘を買いこんで呑気な暮しをしていたので、急に警官に追われる身となり、おどろいてしまった。彼は旧友のベルタニ(チャールズ・ヴァネル)の経営する料理店に相談に行った。ベルタニとロビーは、第二次大戦中、ドイツの飛行機により爆撃されたフランスの刑務所から脱走した仲間同志であった。ベルタニの指示でロビーはニースに行き、そこで保険会社の調査員ヒュースンに会った。ヒュースンはロビーに宝石気違いの母親と一緒に来ているアメリカ娘、フランセス・スティーヴンス(グレイス・ケリー)を紹介した。ロビーは木材商バーンズという仮名を使っていた。彼はフランセスに一目で参ってしまった。ロビーはヒュースンの会社の保険契約の名簿から南仏の金持の名前を調べあげた。「猫」が彼等の持つ宝石に目をつけて行動をはじめれば、その正体をあばくことができると考えたのである。

裏窓

裏窓
1954年/カラー/原作コーネル・ウールリッチ/脚本ジョン・マイケル・ヘイズ/出演ジェームズ・スチュアート、グレース・ケリー、ウェンデル・コリー

裏窓 – 解説

ウイリアム・アイリッシュの別名でも知られる、コーネル・ウールリッチの短編小説が原作である。ヒッチコックは例によって原作重視ではなく彼好みに大幅な改変をしたが、なかでも、ジェフを報道カメラマン(原作ではたんに「スポーツマン・タイプの男」とあるだけ)にしたことは、「のそき見」というこの映画のポイントをひときわひき立たせるのに役立っている。足を骨折して動けない人物という設定は、もちろん犯人に襲われるサスペンスを増加されもするが、彼は外部で起っていることを自分で直接確認できないのであるから、そういう点でもサスペンス度を高める。また、原作では看護の男を映画では恋人リザと看護婦ステラにふりわけた。その恋人を売れっ子のファッション・モデルという設定にし、グレース・ケリーを配して、熱っぽいラブ・シーンも挿入し、華麗さとロマンティック・ムードを加味することも忘れていない。ステラには性格女優セルマ・リッターを選び、コメディ・リリーフ的な味をもたせている。そういう感覚をもたせながらも、各窓の人々の日常生活にリアリティをあたえている演出もみごとである。「救命艇」などと同様に、音楽も、作曲家のピアノやラジオなどの現実音だけである。
物語は水曜の朝にはじまり、土曜の夜でクライマックスをむかえ、そしてエピローグとして翌日曜日(もしくは数日後かもしれない)をもって終わる。その時間の推移は、空の色や光線の具合、そして各人物の行動の行動で説明しているが、同時にフェイド・アウトをもって各時間の区切りをつけている。
なお、殺人をあつかいながら死体がズバリと出てこないという点でも、これはヒッチコック映画としてユニークである。

裏窓 – ストーリー

ニューヨークのダウン・タウン、グリニッチ・ヴィレッジのあるアパートの一室、雑誌社のカメラマン、ジェフ(ジェームズ・ステュワート)は足をくじいて椅子にかけたまま療養中なので、つれづれなるままに窓から中庭の向こうのアパートの様子を望遠鏡で眺めて退屈をしのいでいた。胸が自慢の女がブラジャーをなくした。男が欲しくてたまらぬ女が男を連れこんだがどう切り出していいか分からない。新婚の男女の濃厚なラブ・シーン。ピアノに向かって苦吟している作曲家。犬を飼っている夫婦者など。そのうちにジェフの興味を惹くことが起きた。病気で寝たきりの妻と2人暮らしのセールスマンのラース・ソーウォルドが送り出し、翌日から妻の姿が見えなくなった。ジェフは注意して彼の動静を観察し、妻を殺して死体をトランクにつめ、どこかへ送ったものと確信した。この調査には恋人のリザ(グレイス・ケリー)や看護婦のステラにも一役買ってもらった。

ダイヤルMを廻せ!

1954年/カラー/原作フレドリック・ノット/脚本フレドリック・ノット/出演レイ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス

ダイヤルMを廻せ! – 解説

戯曲どおり設定をほとんどロンドンの一アパートの内部に限り、その結果、ドラマの状況の変化を生み出す面白さをショットではなく多量のセリフに頼っているが、ヒッチコックはけっして映画的な処理をおこなったわけではない。戯曲を映画化するとき、多くの映画人がやるように舞台の枠をはみ出させようとするのではなく、むしろ舞台の制約に忠実であることを好むと言う彼は、ここでもそれを実行しているわけだが、きわめて演劇的は威圧感はなく、映画本来の妙味に貫かれている。
「私は告白する」に次いでアルフレッド・ヒッチコックが監督したミステリイ・ドラマ1954年作品。フレデリック・ノットの戯曲およびテレビ劇を作者自身が脚色した。撮影のロバート・バークス、音楽のディミトリ・ティオムキンも「私は告白する」と同じスタフ。主演は「午後の喇叭」のレイ・ミランド、「モガンボ」のグレイス・ケリー、「逃走迷路」「恐怖時代」のロバート・カミングスで、ジョン・ウィリアムス(1)、アンソニー・ドーソン(「鷲の谷」)らが助演する。ワーナーカラー作品、3D立体映画であるが、日本公開は平面版になる。

ダイヤルMを廻せ! – ストーリー

ロンドンの住宅地にあるアパート。その1階に部屋を借りているトニー(レイ・ミランド)とマーゴ(グレイス・ケリー)のウエンディス夫妻は、表面平穏な生活を送っているように見えたが、夫婦の気持ちは全く離ればなれで、マーゴはアメリカのテレビ作家マーク・ホリデイ(ロバート・カミングス)と不倫な恋におちており、それを恨むトニーは、ひそかに妻の謀殺を企てていた。トニーはもとウィンブルドンのテニスのチャンピオンで、金持ち娘のマーゴはその名声にあこがれて彼と結婚したのだが、トニーが選手を引退してからは、彼への愛情が次第にさめていったのである。トニーは大学時代の友人でやくざな暮らしをしているレスゲートに、巧みに持ちかけて妻の殺人を依頼した。

私は告白する

1952年/白黒/原作ポール・アンセルム/脚本ジョージ・タボリ、ウィリアム・アーチボルド/出演モンゴメリー・クリフト、アン・バクスター、カール・マルデン

私は告白する – 解説

主人公がカトリックの神父であることにこの物語の基本的な鍵がある。神父は懺悔を聞く義務があるが、それを口外することは道にそむくとされている。ところがこの主人公はそれを守り抜こうとしたために、自分自身が犯人と目されてしまう。そこまでして道を守らねばならないということに非カトリック教徒の観客は首をひねったりもした。ちなみにヒッチコック自身もカトリックであったが、むろんここでは宗教上の問題を提示したわけではなく、素材として用いているにすぎない。
ポール・アンセルムの戯曲の映画化。脚本はジョージ・タボリとウィリアム・アーチボルドの共同執筆。撮影は「見知らぬ乗客」のロバート・バークス、音楽の作曲指揮は「吹き荒ぶ風」のディミトリ・ティオムキンのの担当。主演は「終着駅」のモンゴメリー・クリフトと「人生模様」のアン・バクスターで、カール・マルデン(「欲望という名の電車」)、ブライアン・エイハーン(「大地は怒る」)、O・E・ハッセ、ロジャー・ダンらが助演する。

私は告白する – ストーリー

カナダの都市ケベックの教会。ここの神父館で働くオットー・ケラー(O・E・ハッセ)は、ある夜、神父マイケル・ローガン(モンゴメリー・クリフト)に重大な告白をした。ケラーは生活苦の末、強盗を働いて弁護士ヴィレットを殺害したのだ。この事件はラルー警視(カール・マルデン)が捜査に乗り出した。ケラーは犯行のとき僧衣をまとっていたので、マイケルに疑いがかかって来た。だが聖職にある彼は、告白の内容を洩らそうとはしなかった。そのうえ、兇行の夜、マイケルが国会議員グランドフォードの妻ルース(アン・バクスター)と逢っていたこともわかって、彼への心証は益々悪くなった。ルースは無実を明かすために良人、検事、警視、マイケルらの前で、マイケルとの過ぎし日の恋を打ちあけた。

見知らぬ乗客

1951年/白黒/原作バトリシア・ハイスミス/脚本レイモンド・チャンドラー、チャンチ・オーモンド/潤色ホイットフィールド・クック/出演ファーリー・グレンジャー、ルス・ロマン、ロバート・ウォーカー

見知らぬ乗客 – 解説

言葉を失うくらいの映像魔術に陶然とする、テーマ的にも手法的にもヒッチコックの絶頂を示すスリラーの傑作。開巻の視覚的な、二人の男の“接近遭遇”を示すショットの連なりからして、大胆で素晴らしい効果をあげている。「太陽がいっぱい」のP・ハイスミス原作の同性愛的ムードを底辺に漂わせ、ひたすら強烈な状況設定の鎖として映画を見せていくヒッチコック演出。

見知らぬ乗客 – ストーリー

アマチュア・テニス選手として名の通っているガイ・ヘインズ(ファーリー・グレンジャー)は、ワシントンから故郷メトカルフへ離婚のため帰る途中、列車の中で不思議な青年ブルノ・アントニー(ロバート・ウォーカー)と知り合った。彼は、ガイが最近妻ミリアムと不和になり、モートン上院議員の娘アン(ルース・ローマン)と結婚したがっていることを知っていて、自分の父を殺してくれるならミリアムを殺してやろうと申し出たのである。むろんガイはこの交換殺人を一笑に付したが、アントニーは遊園地の草原で本当にミリアムを殺してしまった。ガイはアリバイが不充分なまま刑事の尾行を受けることになったが、そのスキを狙ってブルノははしつこく返礼殺人をガイに迫るのだった。

舞台恐怖症

1950年/白黒/原作セルウィン・ジェプスン/脚本ホイットフィールド・クック/潤色アルマ・レヴィル/出演マレーネ・ディートリッヒ、ジェーン・ワイマン、マイケル・ワイルディング、リチヤード・トツド

舞台恐怖症 – 解説

いかにも英国の推理ものらしい謎解き遊びがこれほど楽しく、かつスリリングなのもヒッチ作品ならではのことで、死体がむやみやたらに転がらないのも臆病な人にはよい。その代わり、この映画には血の付いたドレスが重要なモチーフとして出てきて、モノクロ映画の強味でグロテスクさは感じさせないが恐怖はしっかり盛り上げる。主演は元レーガン大統領夫人のジェーン・ワイマン。

舞台恐怖症 – ストーリー

大女優シャーロットは夫を殺害。愛人ジョニーの元へ助けを求めに来た。彼女の着替えを取りに行ったジョニーはその姿をメイドに目撃され、殺人容疑者として警察に追われるハメになる。それを聞いた演劇学校に通うジョニーのガールフレンド、イブは、父親の別荘に彼を匿い、彼を罠にはめた証拠を見つけるべく、世話係に変装しシャーロットの屋敷に忍び込むのであった。

山羊座のもとで

1949年/カラー/原作ヘレン・シンプスン/脚本ジェームズ・ブライディ/出演イングリッド・バーグマン、ジョセフ・コットン、マイケル・ワイルディングー

山羊座のもとで – 解説

「レベッカ」に見られた階級の差からくる不安感、アイデンティティ? のもろさのようなものがこの映画でも描かれており、ジョセフ・コットンがイングリット・バーグマンとの間の階級差に悩み、その裏ではコットン邸でメイドをしている女がコットンとの間の階級差に悩んでいるという階級差の二重構造としてこの映画に存在している。コットンのキャラクターは複雑だが、いい人であることは間違いない。この他の登場人物たちも基本的にはいい人である。バーグマンは夫のことを心から愛しており、マイケル・ワイルディング演じる青年もバーグマンへのほのかな愛情を隠している。この映画でただひとり悪意を抱いているメイド。酒瓶を下女たちに見せるシーン、ミイラを小箱にしまうシーン、ひそかに薬を飲み物に潜ませるシーンなど、彼女に関するシーンではこの映画の特徴である長回しが生きてくる。階級差に悩むメロドラマとしてもなかなかおもしろい作品である。

山羊座のもとで – ストーリー

1831年シドニー。アイルランドの富豪の娘ヘンリエッタは、彼女の兄を殺し、この地に流刑になった馬丁のサムと恋に落ち、結婚。今ではサムも土地の名士にのしあがっている。幼なじみのチャールズが、彼女を訪ねると、アルコールにおぼれ、家政婦ミリーに怯えていた。ミリーは、チャールズとの伸が怪しいとサムに告げる。嫉妬に狂うサムにチャールズは撃たれ重傷を負う。サムは逮捕されるが、兄を殺したのは自分でサムは身代わりに流刑になったとヘンリエッタが告白。釈放される。しかし、ヘンリエッタの中毒は進み、幻覚に悩まされるほどになった。サムに恋するミリーがヘンリエッタの酒に少量ずつ毒を混入していたのだった。

ロープ

1948年/カラー/原作バトリック・ハミルトン/脚本アーサー・ローレンツ/出演ジェームズ・スチュアート、ファーリー・グレンジャー、ジョン・ドール

ロープ – 解説

英国の劇作家で「ガス燈」を書いたパトリック・ハミルトンの戯曲“Rope’s end”を俳優・作家・監督であるヒューム・クローニンが脚色し、アーサー・ローレンツが脚本化したサスペンスもの。監督は「見知らぬ乗客」「サイコ」のアルフレッド・ヒッチコック。撮影は「疑惑の影」のジョセフ・ヴァレンタインと、「クオ・ヴァディス」のウィリアム・V・スコール。レオ・F・フォーブステインが音楽を担当している。出演者は「裏窓」「めまい」「リバティ・バランスを射った男」のジェームズ・スチュアート、「見知らぬ乗客」「夢去りぬ」のファーリー・グレンジャー、「謎の大陸アトランティス」やTV「ヒッチコック劇場」のジョン・ドール、「断崖」「気球船探検」のサー・セドリック・ハードウィック、「美しき被告」のダグラス・ディック、コンスタンス・コリアらヒッチコック作品に出ている者が多い。製作は「私は告白する」以後TVを手がけているシドニー・L・バーンステイン。なお事件の実際の時間と映画の時間とがぴったり同じになっている。

ロープ – ストーリー

大きな窓からマンハッタンの摩天楼が一目で見渡せるニューヨークのあるアパートの一室、殺人は夕方、この部屋で行われた。フィリップ(ファーリー・グレンジャー)とブラントン(ジョン・ドール)という大学を出たばかりの青年2人が同級生だったデイビットを絞め殺して、死体を衣装箱に入れたのだ。動機など別にない。ただ自分たちがずば抜けて人より秀れていることを試したかったのだ。

パラダイン夫人の恋

1947年/白黒/原作ロバート・ヒッチェンズ/脚本デイヴィッド・O・セルズニック/潤色アルマ・レヴィル/出演グレゴリー・ペック、アン・トッド、チャールズ・ロートン、アリタ・ヴァリ

パラダイン夫人の恋 – 解説

デイヴィッド・O・セルズニック(「風と共に去りぬ」)が製作し、アルフレッド・ヒッチコックが「汚名」に次いで監督したスリラー1947年。ロバート・シチェンズの原作小説をアルマ・レヴィルとジェームズ・ブリディが潤色し製作者セルズニック自身が脚色した。撮影は「探偵物語」のリー・ガームス、音楽は「陽のあたる場所」のフランツ・ワックスマンの担当。主演は「キリマンジャロの雪」のグレゴリー・ペック、「超音ジェット機」のアン・トッド、それに「第三の男」のアリダ・ヴァリ(本作品が米映画初出演)で、「青いヴェール」のチャールズ・ロートン、「追はぎ」のチャールズ・コバーン、「女海賊アン」のルイ・ジュールダン、エセル・バリモア、ジョーン・テッツェル、レオ・G・キャロルらが助演する。

パラダイン夫人の恋 – ストーリー

英国の名門パラディーン家の未亡人マッデリーナ(アリダ・ヴァリ)は、突然、夫を毒殺した嫌疑で起訴された。1946年の春のことである。アッデリーンは類まれな美貌の持ち主で、戦傷を受けて盲になった夫パラディーン大佐に献身した良妻として知られていたが、ある日、パラディーン大佐が何者かに殺害され、その真相は謎を秘めたままになっていた。夫人は知己のシモン・フレイカー卿(チャールズ・コバーン)に弁護を頼んだが、卿は自分の友人で若くて敏腕な弁護士アンソニー・キーン(グレゴリー・ペック)を推薦した。キーンの妻ゲイ(アン・トッド)は貞淑な女で、夫にこの事件を担当するよう勧めるのだった。キーンは初めてパラディーン夫人に会ってその美しさに心を奪われ、彼女の無罪を信ぜずにはいられなかった。キーンは調査を進めるうちに、パラディーン家の家令アンドレ・ラトゥール(ルイ・ジュールダン)がこの事件に関係あることを知った。

汚名

1946年/白黒/原作アルフレッド・ヒッチコック/脚本ベン・ヘクト/出演イングリッド・バーグマン、ケイリ・グラント、クマド・レインズ

汚名 – 解説

「断崖」「疑惑の影」のアルフレッド・ヒッチコックが「ガス燈」「ジキル博士とハイド氏(1941)」のイングリッド・バーグマンと「独身者と女学生」のケーリー・グラントを主役として監督した1946年作品。脚本は「運命の饗宴」やヒッチコック作品「呪縛」のベン・ヘクトが書き下ろしたもので、撮影は現在監督に転じて名を挙げている「春を手さぐる」等のテッド・テズラフで、音楽は「ママの思い出」のロイ・ウェッブが作曲した。助演はクロード・レインズ、「ゾラの生涯」のルイス・カルハーン、映画初出演の舞台女優レオポルディーン・コンスタンチン、「少年牧場」のモローニ・オルセン、かつてドイツ映画の監督だったラインホルト・シュンツェルその他である。

汚名 – ストーリー

アリシア・ハバーマンは売国奴の父を持ったために心ならずも悪名高き女として全米に宣伝されていた。ある夜うさ晴らしに開いたパーティで、彼女はデブリンというアメリカの連邦警察官と知り合った。デブリンは南米に策動するナチ一味を探る重要な職務にあった。首謀者セバスチャンをよく知っているアリシアを利用する目的で近づいたのだったが、やがて彼女に強く引かれるようになった。一緒に南米に行き、リオ・デ・ジャネイロでの楽しいあけくれに、二人の愛情は日毎に深まり、アリシアはデブリンの愛によって、その昔の純情さを取り戻していった。が間もなく、彼女は命令で首領セバスチャンを探ることになったが、彼が以前父親の相棒だったことから、アリシアは容易にセバスチャン邸に入り込むことに成功し計画通りに彼は彼女を恋するようになった。

白い恐怖

1945年/白黒/原作フランシス・ビーディング/脚本ベン・ヘクト/出演イングリッド・バーグマン、グレゴリー・ペック

白い恐怖 – 解説

アルフレッド・ヒッチコックが「汚名」(46)に先立って監督した1945年度スリラー映画。フランシス・ビーディングの原作を「汚名」と同じくベン・ヘクトが脚色した。撮影は「船乗りシンバッドの冒険」のジョージ・バーンズ、音楽はこの作品でオスカーを得たミクロス・ローザ担当。夢の場面装置はシュル・レアリスト、サルヴァドル・ダリ、主演は「ジャンヌ・ダーク」のイングリッド・バーグマンと「白昼の決闘」のグレゴリイ・ペックで、「夢の宮廷」のロンダ・フレミング、「Gメン対間諜」のレオ・G・キャロル、ロシア出身の老優マイケル・チェホフ、「死の谷」のヴィクター・キリアン、ビル・グッドウィンらが助演する。

白い恐怖 – ストーリー

ヴァーモント州の精神病院に新しくエドワーズ博士が院長として就任。女医コンスタンスは、彼に恋してしまう。しかし、彼は白地に縞模様をみると異常に取り乱し、サインもエドワーズ博士の著書の筆跡と違っている。コンスタンスが追及すると、自分は記憶喪失でエドワーズを殺害したらしいと告白。警察の手がのびる。彼は、じつはでジョンという男で、スキー場でエドワーズが殺害されはるのを見て、幼い頃、誤って弟を事故死させてしまった罪の意識から、自分が犯人だと思いこんでしまったのだ。真犯人は、その後、院長に就任していたマーチスンであった。

救命艇

1943年/白黒/原案ジョン・スタインベック/脚本ジョー・スワーリング/出演タルラ・バンクヘッド、ウィリアム・ベンディックス

救命艇 – 解説

狭い艇内に集った数名の男女による漂流を描いたスタインベックの原作をジョー・スワーリングが脚色、密室劇の一種としてヒッチコックが手腕をいかんなく発揮した。いくつものドラマがひとつの大きな物語を織り成していく様は圧巻にして見応え充分。音楽も最初のタイトル部分以外は一切使われていません。そういう点でも実験的。

救命艇 – ストーリー

第二次大戦下、魚雷攻撃を受けた船から脱出した生存者たちが一隻の救命艇にたどり着く。そこには様々な人種・職業・身分の人々がいたが、この極限状況下では平時の人間関係が維持できるはずもなかった。

疑惑の影

1943年/白黒/原案ゴードン・マクドネル/脚本ソートン・ワイルダー・アルマ・レヴィル、サリー・ベンスン/出演ジョセフ・コットン、テレサ・ライト、マクドナルド・ケリー

疑惑の影 – 解説

小都会サンタ・ローザの雰囲気と平凡な家庭の描写がじつにみごとである。日本で戦後最初に登場したヒッチコック映画だ。カルフォルニアのサンタ・ローザでロケが行われた。それまで撮影所内のセットやミニチュアの多かったヒッチコックにとってリアルなサスペンスへ転じる大きな転機となった。
主演女優テレサ・ライトはニューヨークの劇場出身。「ミニヴァー夫人」で助演女優賞をうけ「ヤンキースの誇り」でゲイリー・クーパーの相手役を演じた。ジョセフ・コットンは先般封切られた「恋の十日間」でお馴染。1942年作品。

疑惑の影 – ストーリー

加州サンタ・ローザの町に住むニュートン一家は平和な生活を続けていたが長女のチャーリーは家庭を生々としたものにしたいと思いそのためには母の弟のチャーリー叔父に来てもらいたいと思っていた。当のチャーリー叔父はある犯罪のため身に迫る危険を知って加州へ高飛びして偶然にもニュートン一家に仮寓することになった。一家は悦んで彼を歓待した。ある日、ジャック・グラハムとサンダースという二人の男がニュートン家を訪れて来た。彼等は政府の調査員として米国の中流家庭の調査に来たとのふれこみだったがチャーリー叔父は彼等が探偵であることを見破り二人を避けていた。ところがうっかりしたところを写真に撮られたので怒ってフィルムを奪ったが、そのただならぬ様子に傍らにいたチャーリーは怪しんだ。その夜チャーリーはジャックから、彼等が叔父をある殺人事件の容疑者としてその確証を握りに東部の警察から派遣されて来たのだといわれ、協力を求められたが、叔父を信用しているチャーリーは、彼の申し出を固く断った。

逃走迷路

1942年/白黒/原案アルフレッド・ヒッチコック/脚本ピーター・ヴィアテル、ジョーン・ハリスン、ドロシー・パーカー/出演ロバート・カミングス・プリシラ・レイン、オット・クルガー

逃走迷路 – 解説

無実の青年が警察の追跡を逃れながら真犯人を探す、ヒッチコック得意の“巻き込まれ方サスペンス”の代表作。監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はピーター・ヴィアテル、ジョーン・ハリソン、 ドロシー・パーカーが担当。撮影はジョゼフ・ヴァレンタイン。編集はオットー・ルドウィグ。主演は「大いなる野望」のロバート・カミングス。ヒロインに「毒薬と老嬢」のプリシラ・レーン。共演はノーマン・ロイド、オットー・クルーガーほか。

逃走迷路 – ストーリー

カリフォルニア州グレンデールの航空機会社で働くバリー・ケーン(ロバート・カミングス)は、工場の火事で同僚のメイソンが死んだ事件の容疑者に仕立てられる。真犯人の手がかりは、燃える工場から飛び出してきた男フライ(ノーマン・ロイド)と、彼が落とした封筒にあった住所“ディープ・スプリングス牧場”だけだった。バリーは警察の手を逃れ、“ディープ・スプリングス牧場”に向かう。だが、牧場主のトビン(オットー・クルーガー)は、フライという男など知らない、と言い放つ。あきらめて帰ろうとするバリーに、トビンの子供がじゃれついてきた。その子は父親の上着のポケットから取り出した紙切れをバリーに渡す。それは、フライからの電報だった。そのとき、トビンの通報によって駆けつけた警察に、バリーは逮捕される。

断崖

1941年/白黒/原作フランシス・アイルズ/脚本サムスン・ラファエルスン、ジョーン・ハリスン、アルマ・レヴィル/出演ケイリー・グラント、ジョーン・フォンテーン、ナイジェル・ブルース

断崖 – 解説

原作はアンソニイ・ギルバートとして知られた英国探偵作家が、 フランシス・アイリスの名で発表した推理小説「犯行以前」が原作であり、夫に対する疑惑が積み重なって、ついに自分も殺されると信じてしまう妻の不安を克明に描いたという点で、ヒッチコックらしい題材である。
「極楽特急」「陽気な中尉さん」「メリイ・ウイドウ(1934)」のサムソン・ラファエルソン、「ファントム・レディ」「アンクル・ハリイの奇妙な事件」の製作者であり「ダーク・ウオータース」の脚色者たるジョーン・ハリソン女史、監督ヒッチコックの妻であり彼の「孤独の女」等を脚色した英国の女流作家アルマ・レヴィルの三人が脚色し「レベッカ」「疑惑の影」「スペルバウンド」「ノートリアス」等のアルフレッド・ヒッチコック監督作品。撮影は「女だけの都」を撮ったのちアメリカに渡り、「ドリアン・グレイの肖像」で1945年アカデミイ撮影賞を受けたハリー・ストラドリング、音楽は「リリオム」「激怒」「スケフィシトン氏」のフランツ・ワックスマンが当たった。主演は「コンドル(1939)」「この虫10万ドル」「愛のアルバム」等のケーリー・グラント、「ガンガ・ディン」「レベッカ」「コンスタント・ニンフ」「ジェーン・エア」等のジョーン・フォンテーンで、彼女はこの映画で1941年度アカデミー主演女優賞を得た。助演には「大国の鍵」のサー・セドリック・ハードウィック、「小麦は緑」のナイジェル・ブルース、「肉体と幻想」のディム・メイ・ホイッティ、「フールス・フォア・スキャンダル」の英国女優イサベル・ジーンス、「救命艇」のヘザー・エンジェル、英国の作家であり舞台演出家でもあるオリオール・リイ等が顔をそろえている。

断崖 – ストーリー

英国社交界の人気者ジョニイ・アイガースは学生時代から詐欺常習者だったが、さすがに相思の娘リーナ・マクレイドロウとかけ落ちするときは真剣だった。リーナはジョニイが無一文であることを知り、熱心に仕事をもつことを勧め、その結果彼は従弟の財産を管理するが、やがてリーナは彼が従弟の財産を使いこんでいることを知り非常な衝撃を受ける。続いて彼は友人のビーキーを唆かし土地に投資させるが、彼女はジョニイがビーキーの金を自由にした上で彼を殺すのではないかと憶測する。ジョニイはパリへ出発するビーキーを見送ってロンドンに行くが、ビーキーはパリで死亡する。

スミス夫妻

1941年/白黒/原案・脚本ノーマン・クラスナ/出演キャロル・ロンバート、ロバート・モンゴメリー

スミス夫妻 – 解説

ふとしたことから結婚が無効であることが判明した一夫婦の騒動を描くコメディ映画。エグゼクティヴ・プロデューサーはハリー・E・エディングトン、監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はノーマン・クラスナ、撮影はハリー・ストラドリング、音楽はロイ・ウェッブが担当。出演はキャロル・ロンバード、ロバート・モンゴメリーほか。

スミス夫妻 – ストーリー

アン(キャロル・ロン・バード)とデイヴィッド(ロバート・モンゴメリー)のスミス夫妻は結婚して3年目、これまで喧嘩は数多く繰り広げてきたが、2人の愛は変わらなかった。ところがある日、弁護士事務所に出向いたデイヴィッドは、ハリー・ディーバーという老役人の訪問をうけ2人の結婚は役所の手続きのミスで無効であると知らされる。その足でハリーは、アンを訪ね同じことを告げる。夫から思い出の店“ママ・ルーシー”で夕食をとろうとの連絡をうけた彼女は、再びのプロポーズを期待するのだった。ところがその“ママ・ルーシー”は昔とは正反対のさびれようで、なかなか話を切り出さないデイヴィッドに不安と憤懣の念を抱いたアンは、夫を家から追い出してしまう。

海外特派員

1940年/白黒/脚本チャールズ・ベネット、ジョーン・ハリスン/出演ジョエル・マックリー、ラレイン・デイ、ハーバート・マーシャル

海外特派員 – 解説

第二次世界大戦直前のヨーロッパを舞台に、アメリカの新聞社から派遣されてきた特派員が巻き込まれる殺人事件と不穏な社会情勢を描いたサスペンス映画で、かつてTVで放映されたが劇場では初公開である。製作はウォルター・ウェンジャー、監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はチャールズ・ベネットとジョーン・ハリソン、撮影はルドルフ・マテ、音楽はアルフレッド・ニューマンがそれぞれ担当。出演はジョエル・マクリー、ラレイン・デイ、ハーバート・マーシャル、ジョージ・サンダース、アルバート・パッサーマン、ロバート・ベンチリーなど。

海外特派員 – ストーリー

1938年のある日、ニューヨーク・モーニング・グローブ紙の社長は、不穏なヨーロッパ情勢を取材する特派員として、最も威勢のいい記者ジョン・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)を指名した。社長室に呼ばれたジョーンズは、そこでヨーロッパでの平和運動の大立者フィッシャー(ハーバート・マーシャル)と知りあった。やがてジョーンズは、ロンドンへ向かった。彼を迎えた前任者ステビンス(ロバート・ベンチリー)は既に記者魂を失った男だった。間もなくフィッシャーもロンドンに到着し、戦争防止の立役者オランダの元老政治家ヴァン・メア(アルバート・パッサーマン)の歓迎パーティを開き、ジョーンズは、そこでフィッシャーの美しい娘キャロル(ラレイン・デイ)と知りあった。アムステルダムで平和会議が開かれることになり、雨が激しく降りつける中、ジョーンズも取材のために出かけたが、彼の目前でヴァン・メアがカメラマンを装った男に拳銃で撃たれた。傘の間をぬって逃げた犯人は、待たせてあった車に乗り込んだ。

レベッカ

レベッカ
1940年/白黒/原作ダフネ・デュ・モーリア/脚本ロバート・E・シャーウッド、ジョーン・ハリスン/出演ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンテーン、ジュディス・アンダースン

レベッカ – 解説

ハリウッドに渡って最初に手がけた作品であり、さっそくアカデミー作品賞(ほかに撮影賞も獲得)を受けて、アメリカ映画界へのはなばなしい登場となった。この作品は大戦中のアメリカ映画にスリラーものとくに、ニューロティックと呼ばれる一連の作品の流行を生むきっかけともなった。
「情炎の海」のダフネ・デュ・モーリアの同名の原作から、「我等の生涯の最良の年」のロバート・E・シャーウッドがジョーン・シンプソンと協同脚色、製作は「風と共に去りぬ」につづくデイヴィド・O・セルズニック。撮影は「海賊バラクーダ」のジョージ・バーンズ、音楽は「大編隊」のフランツ・ワックスマンが担当する。「嵐ケ丘」のローレンス・オリヴィエ、「純愛の誓い」のジョーン・フォンテーン、「天国の怒り」のジョージ・サンダース以下、ジュディス・アンダーソン、ナイジェル・ブルースらが助演。

レベッカ – ストーリー

英国コーンウォル海岸近くにマンダレイという荘園を持ったマキシム・デ・ウインター(ロウレンス・オリヴィエ)はモンテカルロで知り合った娘(ジョーン・フォンテーン)と結婚して帰邸した。彼は美しい先妻レベッカを失って、2度目の結婚であった。家政婦のデンヴァー夫人(ジュディス・アンダーソン)は、レベッカへの熱愛から、新夫人を成上りの闖入者扱にし、レベッカの居間は生前のままに保存していた。死後も尚レベッカが家を支配しているようだった。恒例の仮装舞踏会のとき、デンヴァー夫人のすすめで、新夫人は廊下にかけられた美しい画像の婦人と同じ衣裳をつけたが、それがひどくマキシムを驚かし心を傷つけたようであった。画像の女性はレベッカだったのであった。

巌窟の野獣

1939年/白黒/原作ダフネ・デュ・モーリア/脚本シドニー・ギリアット、ジョーン・ハリスン/出演チャールズ・ロートン、モーリン・オハラ、ロバート・ニュートン

巌窟の野獣 – 解説

「レベッカ」の原作者でもあるダフネ・デュ・モーリアの原作からアルフレッド・ヒッチコックが渡米直前に製作したスリラー。イギリス時代最後の作品である。この作品はサスペンスというよりは冒険アクション仕立てのコスチューム・プレイであり、カメラが人物とともに、マストのてっぺんから投げ出されるように見える演出などはあるというものの、精緻さにも欠け、絶頂期のヒッチコック作品としては見劣りのする結果になってしまった。脚色は、「青の恐怖」「夜霧の都」のシドニー・ギリアットに、「レベッカ」「断崖」のジョーン・ハリソンが協力している。撮影は、「世紀の女王」のハリー・ストラドリング、監督に転向して「赤い百合」などを放っているバーナード・ノウルズが担当している。

巌窟の野獣 – ストーリー

母を失って孤児になったメリイ(モーリーン・オハラ)は、たった一人の身寄りの叔母ペェシェンス(マリー・ネイ)を頼って、彼女が経営するホテルへと行くことにした。馬車に乗って行ったが、馬車はそのホテルの前では止まらず、随分過ぎた山の中で止まった。メリイは近くに一軒だけある豪邸の門を叩いた。そこに住む立派な紳士ペンガラン(チャールズ・ロートン)に助けられ、叔母のホテルまで送ってもらった。すると、ホテルは驚くほど荒れていて叔母の夫だというジョス(レスリー・バンクス)がガラの悪い仲間とともに酒宴を開いていた。叔母もすっかり疲れ切った様子で老け込んでいた。

バルカン超特急

The Lady Vanishes/1938年/ゲインズボロー作品/白黒/製作:エドワード・ブラック/原作:エセル・リナ・ホワイト/脚色:シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー/撮影:ジャック・コックス/音楽:ルイス・レヴィ/出演:マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイブ、ポール・ルーカス、メイ・ウィッティ、ノーントン・ウェイン、ベイジル・ラドフォード

バルカン超特急 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の最高傑作といわれるこの作品には、たしかにみごとな完成感がある。ヒッチコック映画のさまざまなジャンルにまたがる要素を含んでいて、しかもそれぞれのジャンルとして一級であることからくる完成感と言えばいいだろうか。
列車を舞台にしていることがいかにもヒッチコック好みである。サスペンスと列車を結びつけた作品は数多いが、列車サスペンス物の最高水準を示している。
最初にいがみあっていた男女が、さまざまな事態を経るうちに次第に心を惹かれていき、最後に結ばれるというスタイルもヒッチコック調だが、その点でも理想的な運びをみせている。「バルカン超特急」は舞台が列車という特殊な場であるだけに二人の関係の扱い方はごまかしがきかないのだが、うまく処理して成功しているのである。また、この映画では主人公が若い女性で、それを男が助けるという形になっているが、この種のヒッチコック作品の定石として、男が中心となり、それを女が助けるという形が逆になっているのも面白い。また、暗号がメロディになっているところも、この物語の魅力のひとつである。

バルカン超特急 – ストーリー

ルカンの避暑地バンドリカ(仮想国)からロンドンへ帰る列車に乗ったアイリス(M・リックウッド)は、豪雪で立往生した列車から他の客と共にホテルへ避難した。客の顔ぶれはクリケット狂のカルディコット(ノーントン・ウェイン)にチャータース(B・ラドフォード)、弁護士と女、貴婦人フロイ(メイ・ウィッティ)等。アイリスがホテルで寝ようとすると客の一人のギルバート(マイケル・レッドグレーヴ)が大騒ぎを始め、二人はいがみ合う。と、聞えてくるギターの調べ。その歌声はミス・フロイの部屋の窓の下でやんだ。ギター弾きの背後に忍ぶ大きな影。翌朝、ダイヤは回復し、出発の準備をしているアイリスの頭に植木の箱が。軽い打撲傷ですんだものの、彼女の前を横切ったのはミス・フロイだった。列車で二人は偶然にも同室となる。一眠りしたアイリスが起きた時、ミス・フロイは消えていた。

第3逃亡者

Young and Innocent/1937年/ゲインズ・ボロー=ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/製作:エドワード・ブラック/原作:ジョセフィーン・ティ/脚色:チャールズ.ベネット、エドウイン・グリーンウッド、アンソニー・アームストロング、ジェラルド・ザヴォリ/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/編集:チャールズ・フレンド/出演:ノヴァ・ピルビーム、デリック・デ・マー二ー、パーシー・マーモント、ジョージ・カーゾン

第3逃亡者 – 解説

無実の罪を晴らそうとする男が真犯人を追うサスペンス作品。この作品の圧巻はラスト近くホテルのボール・ルームの場面である。カメラはロング・ショットで大広間をとらえ次第に広間の奥で演奏している黒人に変装したドラマーに接近し、ついに激しくまばたきする眼のアップに至るまでクレーン車による大トラック・アップを見せるのである。のちの「汚名」でイングリッド・バーグマンの掌の鍵に近づいていくショットと共通したものだ。また廃坑に車がのみこまれ、主人公がヒロインに手をさしのべるスリルは「北北西に進路をとれ」にまで発展するヒッチコック式見せ場である。

第3逃亡者 – ストーリー

映画女優クリスティン(P・カーム)は、嫉妬深い夫ガイ(ジョージ・カーゾン)に男出入りをなじられた翌朝、死体で浜に打ち上げられた。発見者は被害者と顔見知りのロバート(デリック・ド・マーニー)。通報しようとした彼は来あわせた女達にとがめられ、逆に逮捕されてしまった。凶器として使われたのは、彼のレインコートのベルトだったのだ。無実を主張するロバートは徹夜のとり調べに失神し、入って来た警察署長の娘エリカ(ノヴァ・ピルビーム)に介抱された。やがて正気づいた彼は濡れ衣をはらすため、彼女の車に隠れて脱出する。エリカにかくまわれるロバートだが、エリカは彼の保護者気取り。レインコートをなくした酒場で、彼女はウィル(エドワード・リグビー)という名を聞き出す。さらに、近くのエリカの叔母の家によったため、二人は検問にひっかかり、彼女も共犯と思われる。

サボタージュ

Sabotage/1936年/シェファード=ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/製作:マイケル・バルコン/協同制作:アイヴァ・モンタギュ/原作:ジョセフ・コンラッド/脚色:チャールズ・ベネット/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/編集:チャールズ・フレンド/出演:シルヴィア・シドニー、オスカー・ホモルカ、ジョン.ローダー

サボタージュ – 解説

「暗殺者の家」「三十九夜」「間諜最後の日」とつづくこの時期のヒッチコック作品はどれも彼の実力を示すものばかりだが、前記作が犯人を追跡する行為のなかでサスペンスを生みだしていったのに対し、ここでは一定の場とその日常描写から生まれるサスペンスの追求を行っている。原作はジョセフ・コンラッドの小説「諜報部員」だが、今回は原作にかなり忠実でありながら、しかしやはりヒッチコック流に仕立てた。
各エピソード、各場面、視覚的造形性、セリフなどの関連はますます緊密になり、喜劇的なタッチを挿入する独自な話芸はいっそう明瞭で意識的になってきた。
また、この作品は観客の同情を買うべきヒロインが殺人を犯すという点で、たとえば「ゆすり」に似ているが、凶器であるナイフの扱い方や、ヒロインが殺人の罪を逃れる設定など共通点が多い。ヒロインを演じたシルヴィア・シドニーは演技力の確かなハリウッドの女優である。

サボタージュ – ストーリー

破壊工作活動をする無政府主義者の夫と、その正体を知らぬ妻。夫が時限爆弾を運ばせたため、妻の弟は爆死。弟の復讐に燃える妻は、夫を刺殺し、完全犯罪をもくろむが。

間諜最後の日

The Secret Agent/1936年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン、アイヴァ・モンタギュ/原作:サマセット・モーム/脚色:チャールズ・ベネット/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ジョン・ギルグッド、マテリン・キャロル、ピーター・ローレ、ピーター・ローレ、マデリーン・キャロル、ロバート・ヤング、リリー・パルマー

間諜最後の日 – 解説

ヒッチコックにはスパイを扱った作品がいくつかあるが、スパイその人と活躍を中心に据えている点でこれはめずらしいし、原作者がサマセット・モームだけに、他の作品よりはシリアスで、現実味もある。スパイ活動が高度に発展する以前の第一次世界大戦中に時代を設定しているのでリアリティを欠くまでにいたらず、それも成功の一因となっている。
また、主人公がスパイとしての悩みをかかえることによって、活劇の爽快さよりアイロニーを色濃くたたえた作品になった。いやいやながらアシュンデンという名に変えさせられたブロディは人を殺すことに気がすすまない。最後に、成功を報告する手紙につづいて現れる主人公と恋人の悲しげな笑顔も一味ちがったヒッチコックの世界を感じさせた。現地ロケこそしていないが、物語の背景となっているスイスの風景、雪山やチョコレート工場など…を生かしているのはヒッチコック式だ。
悪役を演じたのは二枚目俳優ロバート・ヤングで上品で洗練され、一見やさしく、のちのヒッチコック映画に見られる「紳士的悪人」タイプの最初の登場となった。

間諜最後の日 – ストーリー

1916年の春、イギリスの小説家で陸軍大尉のブロディーは、情報部長Rに召喚された。彼はリチャード・アシェンデンという新しい名を貰い、スイスへ派遣された。スイスのジュネーヴにはドイツの間諜が暗躍しているので、その男の正体を突止めて抹殺せよ、というのがアシェンデンに下された使命だ。彼がスイスに着くと、アシェンデン夫人という名儀で女間諜エルサが先着していた。またアシェンデンの助手の「将軍」とあだ名の有るスパイも加わった。エルサはマーヴィンと名乗るアメリカ人と知り合い、マーヴィンはしきりに彼女に求愛した。アシェンデン等はランゲンタル村の教会のオルガン奏手がイギリス諜報部の手先となった事を知らされていたので訪れたが、一足先にドイツ間諜の為に扼殺されてしまっていた。唯一の手がかりは、殺された男が握っていた胡栗の殻の形をしたボタン一個だった。

三十九夜

The Thirty-Nine Steps/1935年/ゴーモン・ブリティッシュ作品/白黒/制作:マイケル・バルコン/協同制作:アイヴァ・モンタギュ/原作:ジョン・バカン/脚本:チャールズ・ベネット、アルマ・レヴェル/撮影:バーナード・ノウルズ/音楽:ルイス・レヴィ/出演:ロバート・ドーナット、マデリン・キャロル、ルシー・マンハイム

三十九夜 – 解説

ヒッチコックのイギリス時代の代表作のひとつである。ジョン・バカンの著名なスパイ小説「三十九段階」の映画化で「三十九夜」という日本のタイトルは「段階」では妙味がないとしてつけたまでのことだ。ヒッチコックは原作にかなり手を加えてヒッチコック筋立てに変えてある。
犯罪者と警察の両方から追われるという、その後ヒッチコックが好むことになるストーリーを土台に、次から次へと起こる事件、めまぐるしいばかりのスピーディーな展開に加えて、複雑なディテール描写など映画的なアイディアガ横湓し、以後のヒッチコック作品の基本的な要素が出揃った作品となった。
映画を撮るということはなによりもまず、ストーリーを語ることだが、ありきたりのストーリーであってはならない。ドラマティックで人間的でなければならない。要するに、人生から退屈な時間をすべてカットしたものだ、と言うヒッチコックの考え方そのままのストーリーが展開されるわけである。

三十九夜 – ストーリー

ロンドンのイーストエンドの或る寄席に、最近カナダから帰ったハネーは入った。舞台にミスタ・メモリーと称する記憶の達人が客から出され凡ゆる質問に答えて居た。其の時突如一発の銃声が起こった。観客は舞台を後へに出口へ殺到した。ハンネーは自分の身体にぴたりとついて来る女に助けを乞われ、自分のアパートへ取りあえず同行した。女は灯をつけるな、と頼む。そして女が言う通り、街角には怪しい男が二人立っている。女は自ら国際スパイであると語った。イギリスの国防に関する秘密を某国に売ろうとしているスパイ団を追跡中、寄席まで跡をつけた処を敵に感づかれ、ピストルを発射して混雑に紛れて逃げたのである、という。此の事件の首謀者はスコットランド高原に居る、小指の無い男で、彼女は其処へ急行するのだ、ということである。ハネーが一寝入りした所へ女が倒れて来た。その背にはナイフが立っている。「私の代わりにスコットランドへ行って下さい。」と言うと女は絶命した。ハネーは女殺しの下手人と目されることは必然である。当のスパイを捕らえて身の潔白を証明する外はない。ハネーは未明のスコットランド行の急行列車に乗り込んだ。

暗殺者の家

暗殺者の家 解説

すでに3本のサスペンス映画があるとはいえ、それまでにさまざまな題材を扱って試行錯誤をくり返していたヒッチコックであったが、この作品でサスペンス演出の本領を発揮し、サスペンス映画の巨匠として名実ともに生まれ変っていく契機となった。
各地をたどりながら犯人を追っていくというストーリー構成はおそらくヒッチコックのもっとも得意とするやり方であって、その後も「三十九夜」「北北西に進路をとれ」などをはじめとして、ヒッチコックの傑作にしばしば現れるばかりでなく、他ならぬこの物語も1956年にもう一度つくっている。「知りすぎていた男」がそれだが、ヒッチコックが自分自身で再映画化した唯一の例である。
物語のモデルとなったのは、今世紀初頭のロンドンで「画家ピーター」と呼ばれたアナーキストが一軒の家に閉じこもって政府要人を暗殺しようとし、警察が犯人を出てこさせるのに手こずった事件で、これを脚本家のチャールズ・ベネットがヒッチコックにすすめたと言われている。
暗殺団の首領アボットに扮したピーター・ローレは、ハンガリー生まれでドイツ映画、とりわけ「M」の異常性格の殺人者で注目された俳優で、これがイギリス映画初出演。もう1本ヒッチコックの「間諜最後の日」を経て、ハリウッドヘ渡った。また、冒頭で殺された特務員ルイにフランスの名優ピエール・フレネが扮しているのも興味深い。

暗殺者の家 ストーリー

スイスの観光パンフレット、雪の山々…。そう、ここはサン・モリッツのスキー場である。ロンドンに住むボブとジルのローレンス夫妻は娘のペティをつれてここで休暇を楽しんでいた。三人は射撃遊びをしたが、ジルは射撃の名人で、打ち上げられる標的を片っ端から命中させた。
三人はホテルに戻り、ホールでくつろいだが、ジルは、やはり観光客であるルイといら紳士をお気に召したようで、その男とダンスをしはじめた。軽い嫉妬をおぼえたボブは、そこにあった編みかけの毛糸をルイの上着にこっそり結びつけた。毛糸はどんどんほどけ、踊っている人たちの足にからまり、今にも踊りが混乱しそうになったちょうどそのとき、窓ガラスが割られた。と思いきや、ルイが倒れかかった。ルイは何者かに射殺されたのだ。息の絶える直前、ルイはジルに自室の鍵を渡しながら、「シェーヴィソグ・ブラシのなかにあるメモをイギリス情報局へ」とつぶやいた。
ジルからそれを伝えられたポブは、こっそりとルイの部屋へ忍びこみ、シェーヴィソグ・ブラシのなかからメモを取り出した。そこにはある日付とコンサート・ホールという場所が書かれていた。暗殺者の手も迫ってきた が、ボブはかろうじて逃れ、ホールでボーイをつかまえて、当地にイギリス領事館があるかどうかたずねた。だが、そのボーイときたら、いっこうに英語が通じぬ。そこへ別のボーイがポブに伝言の紙片を届けに来た。それを読んで驚いたボブは、事務所で取り調べられていたジルにその紙片を渡した。「知っていることをしゃべると、二度と娘に会えないだろう」…そう書かれていたのだ。それを読んでジルが卒倒したちょうどそのころ、 娘ベティを泣致した暗殺者の馬車は雪に覆われた山を下っていた。

暗殺者の家
英語タイトル:The Man Who Knew Too Much
公開:1934年
日本公開:1935年
時間:74分
白黒

制作:マイクル・バルコン
協同制作:アイヴァ・モンタギュ
原案:チャールズ・ベネット、D・W・ウインダム=リュイス
脚本:A・R・ロウリンスン、エドウィン・グリーンウッド、チャールズ・ベネット
追加台詞:エムリン・ウイリアムズ
撮影:カート・クーラント
編集:H・セント・C・ステュアート
美術:アルフレッド・ジャンジ、ピーター・プラウド
音楽:アーサー・ベンジャミン

ウィーンからのワルツ

Waltzes from Vienna/1933年/トム・アーノルド・プロ作品/白黒/原作:ガイ・ボルトン/脚本:アルマ・レヴィル、ガイ・ボルトン/撮影:ジャック・コックス/音楽:ヨハン・シュトラウス父子/出演:ジェシー・マシューズ、エズモンド・ナイト

ウィーンからのワルツ – 解説

若いころのヒッチコックはさまざまな題材を手がけているが、これはそのなかでも異色で、ヨハン・シュトラウス父子を主人公にした一種の楽聖メロドラマである。だが、よほど興味がなかったとみえ、以後ヒッチコックはこの作品のことをしゃべりたがらない。
影の使い方などドイツ映画の手法をたくみに消化したヒッチコックではあるが、ドイツ的な題材そのものには魅力を感じなかったようである。

ウィーンからのワルツ – ストーリー

ヨハンとシャニのシュトラウス父子は伯爵夫人をパトロンにしていた。伯爵夫人は息子のシャニがお気に入りで、シャニがパン屋の娘ラジに恋をすると、嫉妬から彼に音楽をやめ、自分と駆け落ちするよう迫った。

第17番

Number Seventeen/1932年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ジェファースン・ファージョン/脚色:アルフレッド・ヒッチコック/撮影:ジャック・コックス/出演:レオン・M・ライオン、アン・グレイ

第17番 – 解説

当時イギリスで有名だった舞台俳優レオン・M・ライオンのために書かれた戯曲からの映画化で、映画でも彼は主人公のベンに扮している。非常に安い制作費でつくられた喜劇だが、前半の廃屋のシークウェンスやサスペンス描写はとくにすばらしく、階段の描写や列車のミニチュアー・セットの使い方はヒッチコック的な完成の域に近づいたといわれた。また後半、列車をふんだんに使っているのもヒッチコックらしい。

第17番 – ストーリー

宝石泥棒を追っていた刑事は「第17番」と呼ばれる廃屋に来てベンという謎の男を、ついで女の死体を発見した。殺された女は父親を探していたことがわかる。宝石争奪戦の結果、三人の泥棒たちが貨物列車で逃げ出したため、刑事とベンは追跡した。途中、啞を装う冒険好きな若い女に出会って、ベンは彼女にひかれる。そして貨物船に列車がぶつかり、ベンと女だけが溺死からまぬがれた。実はベンは探偵であった。

リッチ・アンド・ストレンジ

Rich and Strange/1932年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原案:デイル・コリンズ/脚本:アルマ・レヴィル、ヴァル・ヴァレンタイン/撮影:ジャック・コックス、チャールズ・マーティン/出演:ヘンリー・ケンドール、ジョーン・バリー

リッチ・アンド・ストレンジ – 解説

ヒッチコック自身のアイディアによる映画化で、彼の得意とする、主人公たちが「各地を移動する設定」による作品である。マルセイユ、ポート・サイド、コロンボなどで大がかりなロケをするなど制作資金も充分にかけており、それゆえヒッチコック自身は気に入っているが、ヒットしなかったため、以後のヒッチコックの制作方針に影響を与えたといわれている。

リッチ・アンド・ストレンジ – ストーリー

フレッドとエミリーは平凡な若夫婦だったが、あるとき思わぬ遺産が転がりこんだ。そこで二人は変化のない生活をきりあげて中国への旅行にでかけた。慣れていない船旅に二人は苛立っていさかいを越こし、たがいに別パートナーに気をひかれたりする。やがて船はスエズ運河を経て東洋に達するが、そこで難破し、二人は中国のジャック船に助けられた。こうして若夫婦は数々の奇妙な体験をみやげに帰宅し、平凡で退屈な日常生活のなかにこそ本当の幸福があることを知った。

スキン・ゲーム

The Skin Game/1931年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ジョン・ゴールズワーシ/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、アルマ・レヴェル/撮影:ジャック・コックス、チャールズ・マーティン/出演:エドマンド・グウェン、ジョン・ロングデン

スキン・ゲーム – 解説

文豪ジョン・ゴールズワージの戯曲の忠実な映画化で、興行成績はよかったが、ヒッチコックは満足していない。ふたつの家をめぐる葛藤のドラマという主題は、ヒッチコック的ではなかったし、戯曲どおりセリフが多くなったことも、彼らしい映画とはならない原因をつくった。だが、主観的な移動ショットや速いパンで映像的効果をねらっている点ではさすがヒッチコックといわれる。

スキン・ゲーム – ストーリー

成金一家ホーンブローワ家の息子ロルフは、名家であるヒルクリスト家の令嬢ジルに恋をしてしまう。ロルフの父は、息子のためにヒルクリスト家に行き、結婚を認めてやってくれと頼むが断られる。ヒルクリスト家はロルフの義理の姉に隠された秘密を握っており、それをつかってホーンブローワ家の土地をゆすり取ろうとしていたのだった。

殺人!

Murder!/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:クレメンス・デイン、ヘレン・シンプスン/脚色:アルマ・レヴィル/潤色:アルフレッド・ヒッチコック、ウオルター・マイクロフト/撮影:ジャック・コックス/美術:ジョン・ミード/編集:エミール・デ・ルエル、ルネ・ハリスン/出演:ハーバート・マーシャル、ノラ・ベアリング、フィリス・コンスタム

殺人! – 解説

殺人事件の犯人にされている無実の疑惑を晴らすべく捜査にあたった男が、意外な犯人と動機見つけだすというストーリーは、古典的な犯人さがし物語であり、ヒッチコックがこうしたオーソドックスな謎解きに挑戦したのは例外的である。
トーキーの初期には、一般的に映画はセリフが多く、しかもそれを同時録音せねばならないのでカメラを固定化してしまう傾向があったが、ヒッチコックといえどもその傾向から逃れることはできなかった。さらにこれは戯曲「サー・ジョン登場」の映画化であり、それゆえにセリフの量も多く、カメラノ長まわしが多用される原因ともなった。それに対する細部の処理の数々はヒッチコック的だが、むしろ、面白いのは、劇場とそれをめぐる人々という設定はヒッチコックが後にも好んで使っているが、芝居の上演を行なって犯人を罠にかけるくだりや、劇場以外の室内のショットに舞台のプロセニアム・アーチを感じさせる構図を多用して、これを長まわしと組みあわせて全体を一貫させている。犯人がホモであり、女性的しぐさをし、女装の芸人であるという性格づけもヒッチコック的である。

殺人! – ストーリー

ロンドンのある劇団の花形女優エドナ・ドルースが殺された。現場には、同じ劇団の若い女優ダイアナ・ベアリング(ノラ・ベアリング)が火かき棒を持って呆然と立っていた。彼女は逮捕され、起訴される。裁判では陪審員のひとり、サー・ジョン・メニエ(ハーバート・マーシャル)の弁護もむなしく、ダイアナは死刑を宣告された。劇作家兼俳優にしてアマチュア探偵を気取るサー・ジョンには彼女の犯行とは思えず、単独で調査に乗り出す。彼はダイアナに面会するが、彼女には何やら事件について秘密があるらしい。サー・ジョンが事件を洗い直した結果、女装の空中ブランコ芸人、ハンデル・フェイン(エスメ・パーシー)が容疑者として浮かんできた。サー・ジョンは一計を案じ、今回の事件をモデルにした芝居を上演する計画を立てる。

ジュノーと孔雀

Juno and the Paycock/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/制作:ジョン・マックスウェル/原作:ショーン・オケーシー/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、アルマ・レヴィル/撮影:ジャック・コックス/出演:セーラ・オルグッド、エドワード・チャップマン

ジュノーと孔雀 – 解説

アイルランドの生んだ劇作家ショーン・オケーシーの戯曲の映画化で、革命下のダブリンに住む一家を描く暗い内容の作品にもかかわらずヒットしたし、評価もよかったのは機関銃の音などサウンド効果が目新しかったかもしれない。だが、ヒッチコック的な題材ではなく、彼自身も乗り気になれない仕事だったので、戯曲にあまり手を加えず映画化したと語っている。女主人公の名である「ジュノ」とは、ギリシャ神話に出てくる女神ヘーラーのローマ名で、家政を司る神として現れるときに象徴として孔雀(アイルランドで方言ペイコック)を従えていることが多く、そこからとられた題名でもある。

ジュノーと孔雀 – ストーリー

革命運動が激しいダブリンに住む、夫妻とその息子と娘の4人家族。だが、まともに働いているのは妻だけで、夫は酒浸りで息子は罪を犯して指名手配中の身。そんな時、幸運らしき話が舞い込む。

エルストリー・コーリング

Elstree Calling/1930年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/総監督:エイドリアン・ブラネル/脚本:ヴァル・ヴァレンタイン/同監督:アンドレ・シャルロ、ジャック・ハーバード、アルフレッド・ヒッチコック、ポール・マレー/撮影:クロード・フリーズ・グリーン/出演:ウィル・フィフィー、シシリー・コートニジー

エルストリー・コーリング – 解説

ヒッチコックをはじめ4人の監督による共作。発明されたばかりのTV放送を題材に取り、中継スタジオと放送される各家庭の模様を同時進行で描いて行くコメディ・タッチの作品。途中、ラインダンス等のシーンで2色のパート・カラーを用いる等、意欲的な実験が試みられている。故障で映らなくなったTVを直すため、終始悪戦苦闘する父親と一家が本編中に出て来るが、この部分が、ヒッチコックの担当パート。

ゆすり

1929年/白黒/原作チャールズ・ベネット/脚本アルフレッド・ヒッチコック、ベン・W・レヴィ、チャールズ・ベネット/出演アニー・オンドラ、セーラ・オルグッド、ジョン・ロングデン

ゆすり – 解説

ヒッチコック監督がイギリス時代に撮った初期のサスペンスで、当初サイレントとして作られたのを撮り直し、イギリス初のトーキー映画として仕上げられた作品。襲われそうになり、我が身を守るため相手をナイフで刺し殺してしまったヒロインと、その恋人で彼女を庇おうとする刑事のフランク。そして、そのことをネタに二人を恐喝しようともくろむ男のやりとりをスリリングに描いている。
ヒロインが自分の犯した罪に恐れる心情をナイフという言葉を連続して挿入し表現するなど、トーキー演出とイントロのサイレント・タッチの両方が楽しめる貴重品。

ゆすり – ストーリー

雑貸商の娘アリスは恋仲の刑事フランクと街へ遊びに行ったが、いさかいを起こし、男に誘われてついていった。男は画家で、自室に行くと、アリスは襲われそうになり、逆に男を殺してしまう。事件を担当したフランクは遺留品から犯人がアリスと知った。同じ頃、事件の真相を知った浮浪者がアリスたちをゆすりに来るが、この男は警察の要注意人物で、フランクはこの男に犯罪をなすりつけようとする。

マンクスマン

The Manxman/1929年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:サー・ホール・ケイン/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、マルカム・キーン

マンクスマン – 解説

「マンクスマン」とはアイルランド海に浮かぶマン島人のことで、サー・ホール・ケインの高名な小説を忠実に映画化している。開巻に出てくる「もし人、全世界を得るとも、己が魂を失わば、如何にせんや」という聖書の句を下じきにして、住民たちの人間ドラマを情緒的要素で一貫してとらえ、エリック・ローメルたちの評価は高い。「リング」についで「不倫の関係」を主題にしているのも見逃せない。

マンクスマン – ストーリー

幼いときから仲のよかった漁夫のピートと弁護士フィリップが、マン島へ戻って来た。旅館の娘ケイトを愛しているピートは彼女に結婚を申し込むが、貧乏を理由に彼女の父に断られた。そこでピートはケイトに必ず戻って来ると約束して出稼ぎに行くが、やがて彼女のもとにピートが死んだという知らせが伝わった。フィリップはケイトをなぐさめるが、実は彼もケイトを恋していたのである。ケイトはフィリップの愛を知り、彼女も彼に愛を告白した。ところが、そこへ死んだはずのピートが帰って来る。

シャンパーニュ

Champagne/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原案:ウォルター・c・マイクロフト/脚色:エリオット・スタナード/撮影:ジャック・コックス/出演:ベティ・バルフォア、ゴードン・ハーカー

シャンパーニュ – 解説

わがままな若い娘が世間を知るようになるアメリカ調の「道徳教育」的な物語である。ヒッチコックは、立ち聞きする女中、宝石、食事のシーンなど、後年得意とする演出や小道具の使用をこのころから用いはじめている。
大揺れの船上をまっすぐに歩く酔っ払いのギャグなどユーモラスなタッチが盛んに使われていて、そうしたタッチでの場面をしめくくる手法も目立ってきたようだ。

シャンパーニュ – ストーリー

億万長者の娘ベティは愛する男との結婚を父に反対され、家出してフランスへ行った。父はイカレ気味の娘に世間の厳しさを教えようとして破産したことにする。ベティはあるキャバレーにつとめるが、仕事として客たちにできるだけシャンパンを飲ませなければならない。このシャンパンこそ、彼女の父を財産家にした商品だった。

農夫の妻

The Farmer’s Wife/1928年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/原作:イーデン・フィルポッツ/脚色:アルフレッド・ヒッチコック/撮影:ジャック・コックス/出演:ジェームソン・トーマス、リリアン・ホール=デイヴィス

農夫の妻 – 解説

イギリスの劇作家イーデン・フィルポッソのヒット戯曲の映画化である。主人公が自分を理想的な結婚相手であると思いこむことから起こる田園喜劇で、ウェールズ地方の風景や風物の描き方や、そこから醸し出させる雰囲気に味わいを見せ、単純・素朴な作風であっても、それがほほえましい。

農夫の妻 – ストーリー

アップルクラス農場の主、男やもめのサミュエル・スィートランドは、一人娘を嫁に出し、寂しい思いをしていたが再婚を決意。住み込みの女中アラミタに相談を持ちかける。彼は、貴族の未亡人、未婚の農場主、女性郵便局長、それに居酒屋の女主人の名を上げるが、アラミタは不服そう。実は彼女は心ひそかにサムを想っていたが、まさかそれを口に出すわけにはいかない。サムは一本調子の男臭さで初めの三人に求婚するがいずれも断られて意気消沈し、最後の女主人には結局何も切り出せずにすごすご帰宅。そこでようやく“灯台下暗し”、美しく働き者のアラミタの存在に気づいたのだった。

リング

The Ring/1927年/ブリテッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ作品/白黒/無声/制作:ジョン・マックスウェル/脚本:アルフレッド・ヒッチコック/潤色:アルマ・レヴェル/撮影:ジャック・コックス/出演:カール・ブリッスン、リリアン・ホール=デイヴィス

リング – 解説

ヒッチコックは、はじめてここで自分の原案によるオリジナルを手がけ、ヒッチコック夫人アルマ・レヴィルが潤色者としてはじめてクレジットされた。
ストーリーは一人の若い女をめぐる拳闘選手二人の葛藤であり、エリック・ロメールはここに早くも不倫の関係というヒッチコック的素材が現われていることを指摘しているが、演出の細部においても彼らしい工夫がいくつかある。また、原題の「リング」は、ボクシングのリングを示すとともに、ボブが、ネリーに贈った結婚指輪のことも意味している。なおこの作品は、これまでゲインズボロー社からBIP(ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ)に転じてのヒッチコックの第1作である。

リング – ストーリー

遊園地のさびれたボクシングの見せ物小屋のボクサー、ジャック。彼はそこでヘビー級チャンピオンに見出され、彼の練習役として働くことになる。しかしチャンピオンは同じ見せ物小屋の受付嬢でジャックの妻である女性と恋に落ち、彼女もまた彼に好意を抱いてゆく。そんな二人を後目に嫉妬に燃えるジャックは彼と戦い、妻を取り戻すため快進撃を続け、いつしか二人はリングで決着をつけることに。

ふしだらな女

Easy Virtue/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ノエル・カワード/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ/出演:イザベル・ジーンズ、ロビン・アーヴィン、フランクリン・ダイアル

ふしだらな女 – 解説

主人公に救いがないという点で、ヒッチコックのなかではめずらしいといわれるこの作品は、当時イギリスでもっても人気のあった劇作家ノエル・カワードの風俗劇の映画化である。電話の交換手の表情だけで結婚の約束を示すなど、「下宿人」と同様にスポークン・タイトル(無声映画の字幕)に頼らず映像で語ろうとした作品で、ディゾルヴや移動撮影にも工夫が見られる。

ふしだらな女 – ストーリー

ローリタ・フィルトンは酔いどれの夫と離婚したあと、若い芸術家と恋をするが、彼を自殺に追いやったため、悪名を高めてしまった。やがて、ローリタはジョン・ホワイトタッカーという貴族の青年に出会い、再婚する。ジョンは彼女の過去についてなにも知らなかったが、ジョンの母親がローリタの過去を洗い出し、息子を離婚させる。そして、追い込まれたローリタは破滅する。

下り坂

Downhill/1927年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:アイヴァ・ノヴェロ、コンスタンス・コリアー/脚色:エリオット・スタナード/撮影:クロード・L・マクドネル/編集:アイヴァ・モンタギュ、ライオネル・リッチ/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ベン・ウェブスター

下り坂 – 解説

この作品の前につくった監督第3作「下宿人」で早くもスリラー映画を手がけたヒッチコックではあるが、その後ただちにスリラー映画専門となったのではない。この第4作ではふたたびメロドラマ的な世界へ戻っているのである。

下り坂 – ストーリー

ロンドンの良家の息子ロディはパブリック・スクールの生徒だったが、寄宿学校で盗みを働いたかどで退校させられてしまった。ほんとうは学友が犯人であることを知っていたが黙して語らない。さらに父親からも勘当され、そこで社会で出たロディは、ある女優と関係を結ぶが、そこにもいられなくなり、パリでプロのダンサーに転じ、社交界の人気者となった。

下宿人

The Lodger/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/原作:ベロック・ロウンデス/脚色:アルフレッド・ヒッチコック、エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/助監督:アルマ・レヴィル/出演:アイヴァ・ノヴェロ、ジューン、マリー・オールト

下宿人 – 解説

これが最初のイギリスでの映画であり最初のサスペンス映画である。すなわち「ヒッチコック映画」と称すべきものの第一作。以後ヒッチコック作品にしばしば現われる「間違えられた男」という主題の最初の登場でもある。のちの「ヒッチコック・シャドウ」と呼ばれる視覚的効果を充分にとりいれている。

下宿人 – ストーリー

冬のロンドン、金髪の若い女性ばかりを狙う殺人鬼が現われる。ブロンド娘のデイジーの両親が営む下宿屋にひとりの男が部屋を借りる。怪しげな彼の行動に周囲の人びとは犯人ではないかと疑い始めるが、デイジーだけは彼を信じている。ついに、彼はデイジーの恋人の警察官に逮捕される。手錠のまま逃走。乗り越えようとした鉄柵に手錠がひっかかり宙吊りになってしまう。犯人逮捕の知らせに興奮した群衆が今にも彼につかみかかろうとする。そのとき真犯人逮捕の報が届く。男は殺人犯に妹を殺され、復讐のために犯人を探していたのだ。

山鷲

The Mountain Eagle/1926年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン/脚本:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ベルンハルト・ゲーッケ、ニタ・ナルディ

山鷲 – 解説

第1作にひきつづきドイツで作られたやはりメロドラマ。舞台がケンタッキーの山奥に設定され、サイレント期のアメリカの大女優ニタ・ナルディが主演をつとめているのは、制作者のマイケル・バルコンがアメリカ進出をねらったためである。アメリカでの公開題名は主要人物の綽名をとった“Fear o’ God”。ヒッチコックによれば「とてもひどい映画」ということになるが、プリントが現存しないため物語の詳細も不明だし、写真としてもフランソワ・トリュフォーによるインタヴューの本“Cinema selon Hitchcock”に掲載されている6コマがおそらく唯一のものである。

山鷲 – ストーリー

アルプス山間の一寒村に村人から「山鷲」と綽名されている青年がいた。彼の名はゴトフリードと言い正義を愛する豪快な気性を持ち村里から離れた山腹の侘びしい小屋に住んでいた。「山鷲」の存在を目の上の瘤として快く思わなかったのは村長のペーテルマンであった。彼は村一番の長者であり権勢家であったが生来貪欲な彼は不正な事も敢えて行ったことがあるからである。しかしペーテルマンも子の愛は持っていた。彼の息子のアマンヅスを立派な男とするため女教師ベアトリス・レーメルの許に遣した。彼はベアトリスが美人の評判が高いので息子ともしや間違いでもあってはと自ら彼女を訪れた。

快楽の園

The Pleasure Garden/1925年/ゲインズボロー作品/白黒/無声/制作:マイケル・バルコン、エリック・ポマー/原作:オリヴァー・サンディス/脚色:エリオット・スタナード/撮影:バロン・ヴェンティミグリア/出演:ヴァージニア・ヴァリ、カーメリタ・ゲラーティ

快楽の園 – 解説

ヒッチコックはイギリスの撮影所でサイレント映画の字幕デザインの仕事によって映画入りし、1922年に「第十三番」(または「ピーボディ夫人」)という映画を監督したが、本国でも未公開(または未完成)に終わった。その後、映画美術、助監督、共同監督などを務め、1925年にイギリスの制作者マイケル・バルコンに認められ、ドイツのミュンヘンにあるエメルカ撮影所で一本立ちの監督としてデビューすることになった。
そのヒッチコックの第1作「快楽の園」は皮肉な運命をえがくメロドラマで、ヒッチコック自身は特別の愛着を抱いていない。しかし、主人公の結婚の未来を暗示する不吉なショットや、全編を通じて構図やモンタージュにあらわれる線の交差する大胆な演出など、すでにヒッチコック・タッチを見ることができる。

快楽の園 – ストーリー

劇場「快楽園」の踊娘パッシーは或日踊娘志願の田舎娘ジルを救って自分の下宿に伴って来た。翌日機敏なジルは首尾よく雇われることが出来た。ジルにはヒュウという婚約者があったが彼はアフリカに出稼ぎに行って結婚費を得ようと出発した。彼の友人レヴェットはパッシーを恋して結婚しイタリアへ新婚旅行に出掛けた。ジルは次第に放縦に流れバッシーの意見を耳に入れずイヴァン公爵という遊蕩児をパトロンとすると共に支配人のハミルトンを抱込んで劇場の首尾をよくしたレヴェットもヒュウの後を追ってアフリカに赴き妻のことは忘れて恋を漁った。ヒュウはジルを想っていたがジルが公爵の愛妾となってしまったことを聞いて悲嘆せずにはいられなかった。